3月始めの日曜日、北八ヶ岳の蓼科山に登ってきた。
正月2日に北横岳に登り、正面に、強風に流れゆく雲の切れ目からちらっとだけ見えた山である。
天気予報と睨めっこして、休日で晴れの予報だったのがその日だった。
蓼科雨山日帰り登山
正月以来のあずさ1号に乗り、八王子から茅野に向かう。
9時7分、茅野駅に到着。日帰りで登山するため、今回はレンタカーを利用することにした。余裕を持って前泊するつもりで計画し、宿も予約したのだが、あとから前日は仕事があることに気がつき、宿をキャンセル。そして特急の指定も変更することになった。
蓼科山に公共交通機関を使って登るには、茅野駅からバスを使うことになるが、登山口まで行くバスがない。北八ヶ岳ロープウェイ行きのバスに乗り、途中下車してそこから登山口まで歩いていくことになる。
行きはこれでなんとかなるのだが、帰りが困る。午後3時過ぎまでに再びバス停まで戻ってこなくてはならない。そうなると、一般的な歩行タイムでは間に合わない。健脚で、かつアイゼン装着など準備に手間取らないことができる人でなければ無理だ。雪山に相当慣れている人だけができる芸当だ。
そんなわけで、近くのペンションに前泊する計画を立てた。しかし、前日は仕事が入っていてそれができない。そこで考えたのが、レンタカーというわけである。
いつも使っているニコニコレンタカーがあったが、残念ながら空いている車がなかった。そしてつぎに予約を入れたのがオリックスレンタカーだった。
駅からオリックスレンタカーの店舗まで歩いていく。信号待ちをしていると北八ヶ岳ロープウェイ行きのバスがやってきて停止線で止まった。そうすると路肩いっぱいに止まったので前に行けない。しかたなく右側に大きく回ってバスを追い越した。
営業所での手続きが終わり、9時半頃に出発。10時20分頃に女乃神茶屋のある登山口駐車場に到着した。このときすでに満杯であったが、雪をどかして隅っこに駐車。軽自動車かつスタッドレスタイヤでよかった。
急いで準備をしたつもりだったが、準備に30分くらいかかってしまう。駐車場から道路を歩いて少し戻ると登山道の入り口である。
その入り口でアイゼンをつけている時にもう下山してくる人がいた。その若者に声をかけた。
「もう、登ってきたのですか?」
「ええ」
「ずいぶん早いですね。暗いうちから登られたのですか」
「そんなに早くないですよ。明るくなってからです」
「前に来た時は車がいっぱいで駐車できずに他の山に登ったんですよ、それで早く来たんです。でもこの時間から登るのもありですね」
「山頂は晴れてました?」
「上はすごい風でしたよ。風は強かったけれど晴れて景色がよく見えました」
「午後まで天気が保ってくれたらいいのですが」といって歩き始める。時計を見ると11時だった。
登山開始
はじめはほぼ平らな道で奥まで入っていく。その後急な斜面を登る。地形図を見てイメージした通りだ。
12時頃中間点を通過する。このあたりから傾斜が緩み、蓼科山の頂上が見えた。
再び急登になり、それが頂上まで続く。ルートはほぼ直登である。それは冬道だからではない。夏道も同じルートなのである。
振り返れば時々樹々の間から街が見下ろせる。あれは茅野の街なのだろうか。
この二度目の急登を登っていると、だんだん雲が湧き始めた。この日の予報は晴れのち曇り。だが、もうちょっと晴れていてくれ。
登り始めたのが遅かったせいか、下の方で多くの下山者とすれ違った。そして登るにつれて誰とも会わなくなる。二度目の急登を登っていると再び数人の下山者とすれ違った。このときすれ違った人が最後なのだろうか。その後はまた誰とも会わなくなる。
曇ってきた。温度計はマイナス12度。だが、登っているので寒さは感じない。
再び下山者と出会ったのは、頂上直下の岩場地帯になってからだ。樹林帯を抜けた途端に強風が襲ってきた。上に行く前にアウタージャケットを着ておかなくては。
だが、下の樹林帯は急斜面で平らな場所がない。どこかいい場所はないかと探している時に上から男女のペアが降りてきた。挨拶をすると、
「上はすごい風で立っていられないくらいなのですぐに降りてきました」とのこと。
教えてもらったことにお礼を言うと、「気をつけていってらっしゃい」と言って下っていった。
強風が吹き荒れる山頂
風除けにちょうどいい岩陰を見つけてそこにしゃがんで風を避ける。ザックを下ろし、風に飛ばされないようにしっかりと握ってアウタージャケットを出して着る。時刻は13時、ついでにここで好物のシナモンロールの昼食をとる。飲み物は白湯。今朝入れてきたお湯はまだ熱々だった。
そうやって休んでいると、また一人下ってきた人がぼくの横をすり抜けていった。
身支度を整え強風の中を登り出すと、とたんに風で体が飛ばされ倒れてしまう。鎖場の杭を掴み、落ちないように踏ん張っていた。するとすぐ上に3人組のパーティが降りてきた。彼らが道を譲ってくれていたので這いつくばいながらゆっくり登る。
一気に上に登ることもできそうだったが、横に行くルートもあるように思えた。岩を掴んだり、雪のある場所ではピッケルを差しながらトラバースしていく。そうやって進むと先に進むのが難しい場所になった。危険だ。落ち着いて周りを見てみると、1メートルくらい下が歩きやすそうに見えた。
そこで少し下ってみる。するとなんといままで通常ルートに沿ってはいたが、その上側を歩いてきたと言うことがわかった。
そのまま進むと雪の踏み固められた道になった。そして風も弱くなった。さっきは山に風が当たってから回り込んで、風のスピードが速くなっている場所だったようだ。そうして進行方向に小屋がみえた。蓼科山荘ヒュッテだ。
ありがたいことに雲は流れて晴れてきた。北八ヶ岳もよく見える。山頂も雲がなく、方角がわからなくなることもなさそうだ。
ヒュッテから山頂に向けて斜め後ろに踏み跡が続いていた。そのトレースに従って登っていくと蓼科山山頂の標柱があった。登頂である。
その後中央にある蓼科神社にお詣りし、その先に伸びているトレースに沿って歩いていく。その先にはコンクリートの柱のような台がある。おそらく方位盤が設置されているのだと思うが風が強くて上にはあがらなかったので確認はしていない。
再び同じ道を戻ってくる。ヒュッテまで後少しの平らななんでもないところで足を縺れさせて前に転倒。風のせいで体がよろけてアイゼンの爪をスパッツに引っ掛けたのだ。幸い平らな場所で岩も出っ張っておらず怪我はしなかった。スパッツも無事だった。
だが、下りで同じように転ぶと大怪我をする恐れがある。滑落することもありえる。その後気を引き締めて慎重に歩く。
13時48分、蓼科山荘ヒュッテを後にする。
ヒュッテから向こう側に回り込むと再び強風に煽られる。姿勢を低くし、一歩一歩確実に踏みしめてゆっくりと下っていく。
そんなとき、さっき風に煽られて苦戦した場所にこれから登ってくる人がいた。ずいぶんと遅くに登ってくる人もいるのだなあと思う。風の状況を聞かれたので、向こうに回り込めば風が弱まる。ここが一番風が強いということを教えた。
岩場を過ぎると急な雪の斜面になる。しかし樹々に遮られて風は弱い。風がないとホッとする。心に余裕が生まれる。
ときどき前方が開けて景色が見える。正面は南アルプスで北岳や仙丈ヶ岳が見えているはずだが、山頂が霞んでいてどれがどの山だかわからなかった。
順調に中間地点まで下り、そこの平らな場所で休憩。ソイジョイを食べ、フリーズドライの味噌汁を作って飲む。流石にサーモボトルのお湯も少し温くなっていた。
15時20分、登山口に到着。アイゼンをつけたまま駐車場に戻る。ストックやピッケルを片付け、靴も履き替えて駐車場を後にする。走り出すと、さっき山頂直下ですれ違った登山者が、登山口のところでアイゼンを外しているのを確認。無事に下山したことに安心した。
最後に
茅野駅に向かう途中に温泉がある。今回この温泉に入ることも楽しみにしていた。
駐車場から10分くらいで到着。16時頃だった。
この蓼科温泉は共同浴場で地元の人たちが大勢利用していた。
「歳をとると雪かきが大変でねえ、あんたは若いから平気でしょ」
そういった相手を見ると60代後半か。「そんなことはない」と返ってくる。
「今朝はマイナス12度だった。だんだん春らしくなってくるねえ」
マイナス12度で春らしい? こちらとはだいぶ感覚が違う。
蓼科温泉は源泉掛け流し温泉。お湯の温度は「熱い」ので43度くらいはあったのではないか。
ここでしっかり温まり、無事にレンタカーを返却。
茅野駅ではたっぷり待ち時間があったので、通路のベンチと待合室で地酒を飲みながら過ごす。駅弁は売り切れたので、夕食は立ち食いそば。券売機が新型すぎて操作に戸惑う。中のおばちゃんが出てきて手助けしてくれた。直接注文できないのがちょっと寂しかった。
では、このへんで
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