7月の槍ヶ岳登山に続いてさわやか信州号で上高地入りする。
1日目は上高地から蝶ヶ岳まで。
2日目は蝶ヶ岳から常念岳を往復し、蝶ヶ岳で2泊目。
最終日は蝶ヶ岳から上高地に下る。
台風が近づく中、中日は雨に降られたが、初日と最終日は多少雨に降られた程度で後は晴れ。
槍から穂高までのパノラマが素晴らしかった。
上高地パスターミナルは登山者で混雑
2022年8月11日朝5時半、上高地バスターミナルに高速バス「さわやか信州号」が到着する。
7月の槍ヶ岳のときと違うのは、ターミナルが登山客でごった返していたことだ。
到着してすぐに雨が降り出す。
そのためその屋根の下で買ってきたおにぎりを食べる。
そんなことで朝食を済ませ、レインウェアを着込んでようやく出発したのは6時半少し前、河童橋のところでちょうど6時半だった。
今回は徳沢から蝶ヶ岳に登り、そこにテントを置いて常念岳を往復する。
余裕ある日程なので体力がなくても大丈夫なはず。
蝶ヶ岳は日本百名山には入っていない山だ。山頂はなだらかで特徴といったものがない。
そして徳沢からの尾根道ほとんどすべてが樹林帯の中を行き、途中眺望にも恵まれない。
今回は徳沢からのコースを登ることにしたが、横尾からも登ることができる。こちらは地図を見ても等高線が密集していて急坂であることがわかる。実際に登った人に聞いてもきつい上りだったと言っていた。
徳沢からのコースを選んだのは、横尾より傾斜が緩いことと所要時間が短いということからである。
上高地から徳沢までは以前書いたことがあるので省略するが、前回同様朝のうち少し雨が降ってその後は晴れという天気。
そういえば今回新宿発のさわやか信州号は満席で、渋谷発二子玉川経由のバスが1席だけ残っていて最後の一席が予約できたのだった。ちなみに帰りも新宿行きは満席だった。
また、バスに乗るときに上着を持たずに乗ったため、冷房で寒くて凍死するかと思うくらいで眠れなかった。運転手しかいないのでどうしようもないからトイレに立ったところ、後ろの席の方ではそれほど寒くなかった。
徳沢から蝶ヶ岳
相変わらず明神館手前の池は清らかで美しい。さまざまに花を咲かせる高山植物を眺めながら徳沢には8時10分に到着。ここで2リットルのエバニューのポリタンクに水をいっぱいまで詰める。
すると途端にザックが重く感じられた。
8時40分、蝶ヶ岳登山口を登り始める。いきなりきつい登りが待っていた。この急坂が1キロも続く。
このコースは眺望もきかず、単調にただ登るだけだがそれでも一応のポイントはある。
ちょうど2000メートルのところが平らになっていること、長塀山(ながかべやま)というピークを通過すること、妖精の池という神秘の池があることなどである。
ところがいずれも感動した、なんてことがなくはっきりいって拍子抜けするくらい地味である。
元気づけられたのは「徳沢2キロ蝶ヶ岳4キロ」と「徳沢4キロ蝶ヶ岳2キロ」の標識。3分の1を歩いたのか、あと3分の1かということだ。
最初の1キロの急な登りの時に途中休んでいる人がいたので
「きつい登りですねー」と話しかけると、
「まだまだ続きますよ」と返ってきた。やれやれ。
2000メートルの平な場所を通り過ぎてしばらく行くと、アラフォー世代の女性が倒木に腰掛けていた。
その前を通り過ぎようとすると
「ちょうど良いところにあったので」と話しかけられた。
「確かにちょうど良いですね。この登りはまだまだ続きそうですね」と思わずさっき聞いた言葉が口をついて出た。すると、
「でももう3分の1は過ぎてますよ。さっき徳沢から2キロの標識を過ぎましたから」と返ってきた。おお、なんて前向きな捉え方。確かにそのように考えた方が元気が出る。
長塀山に近づくと、平らなところが何度か現れる。そうしたところに池があり、湿原のようなところがある。おそらく池だったところが湿原になったのだろう。
もうあそこが長塀山山頂だろう。その先に登りは見えない、と思ってそこまで行くと左の方に上っていたりして何度か騙された。
そして特に登ったという感覚がないままに登ったところに長塀山の標識があった。全く拍子抜けである。
眺望もきかず、これといった感慨も湧かない。
腹が減ったのでここで昼食にする。飛び出した木の根っこに腰掛けてお湯を沸かす。
今回はアルファー米ばかりを持ってきた。モンベルのリゾッタはAmazonでは買えないからだ。アルファー米はお湯で15分と時間がかかる。特に急ぐ必要はないのだが、ただ待っているというのはどうにも時間を持て余す。
そうやってのんびりと昼食をとっていたら、さっきのポジティブ思考のアラフォー女性が登ってきた。
「おおっ、お疲れ様」と言うと
「地味だとは聞いていましたが本当に地味ですね」と標識を見ながら呟いた。
「ほんと、苦労して登ってきた割に」
そうしたらその人も周りで聞いていた人たちも笑ってうなづいていた。
長塀山から30分くらいで妖精の池に着く。どうしてそのような名前がついたのか分からないが、オタマジャクシが泳ぐ小さな池だった。
ここからなだらかな丘をいくと一気に展望が開ける。
左手に奥穂高から槍ヶ岳に続く稜線が見えてくる。正面左手には蝶ヶ岳の小屋が見え、その手前に多くの人が小さく並んで見えた。
蝶ヶ岳山頂は広く、一応その一番高いところが頂上になっている。
8月11日午後1時40分、蝶ヶ岳に登頂。山頂を示す標識がなければ見過ごしてしまうようなピークである。
登ったという感動はなかったが、そこから見える景色には感動した。
前月に登った槍ヶ岳は槍沢から尖った山頂までが眺められ、ああ、あそこを通ったのだなあと感慨もひとしおだ。
北穂と南岳の間にある大キレットは深く大きく、そこを歩く困難さが想像できる。
登頂記念写真を撮って蝶ヶ岳ヒュッテに向かい、そこでテント場の受付をする。
あらかじめダウンロードして記入しておいた受付票を受付の人に渡す。すると
「テントの受付は1日ずつなんです」。2泊の予定を記入し、金額も2日分の4000円を記入していたが、1日分に訂正され2000円を支払った。そして明日の分の受付表用紙を渡された。
この日、テント場はもうほとんどいっぱいで、通路脇の狭い場所に張っている人もいた。ぼくはテントとテントの隙間で張れそうなところを探す.ソロ用の小さなテントなので僅かなスペースがあればいいのだ。
地面は石ころだらけでペグが刺さらない(中には途中まで刺している人もいた)。
大抵は大きな石に張り綱を結びつけていた。ところが大きな石は早くにテントを張っていた人たちが使ってしまってもう小さな石しか残っていない。大きくても15センチ×5センチ前後のもの。
仕方がないのでそのくらいの石を出来るだけ下になるように地面の石をどかして埋め、その上に小さな石を積み上げた。
ちょっと不安だったが、ある程度の強さで引っ張っても崩れなかったのでこの方法で張り綱を張った。
稜線上なので風は強かった。一人で設営するので風に飛ばされないようにするのが大変で、風がない時に比べて設営に時間がかかった。
夕方5時頃には夕食を作り始める。6時前には夕食を食べ終えて夕景を眺めに行く。
この時間になるともうかなり冷え込んで、ダウンを着ていてもそれだけでは寒かった。ダウンパンツを履いている人もいて、できればこれも装備に加えたいと思った。
北穂高岳の上空に少しずつ赤みがかってきた太陽がだいぶ光を弱めていた。しかしサンセットを待たずにテント場に戻る。
すると、この時間に到着してテントを張る人たちが何組もいることに驚く。テントとテントの隙間はさらに埋まっていく。テントを組み立てる音を聞きながら早々にシュラフに潜り込んだ。
つづく
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