七ツ石山より望む雲取山 (出典ウィキメディアコモンズ)
テントを担いでの縦走。
それは憧れであった。
1983年、初のテント縦走に出かけた。
蚊に刺されたり、雨に降られたり、道に迷ったりと散々な山行となったが今となっては楽しい思い出になっている。
今回はそんな初テント山行についての話です。
テント山行
8月20日土曜の午前7時、池袋駅に集合する。
7時30分発の西武線レッドアロー号に乗り西武秩父の終点まで行く。秩父鉄道に乗り換えて三峰口に9時27分に到着した。そこから大輪までの臨時バスに乗る。
9時45分、ロープウェイ*乗り場に着く。ロープウェイで山頂駅に登り、7、8分で三峰神社に着く。
*現在ロープウェイは廃止されている(2006年5月から運休し、07年12月1日に廃止)。
さて、ここからが雲取山石尾根縦走の開始である。
今回の山行のためにテントを購入してきた。ダンロップの2人用山岳テントである。正確に言えば、テント山行をしたいがためにテントを買い、最初に選んだ山が雲取山になったのである。
その頃、入社2年目(だったと思う)の後輩のY子ちゃんが、夜間大学に通い始めていて、その大学の山岳部に入ったということを聞いた。
彼女の入った山岳部では、毎週のように休日には金沢八景の岩場で岩登りの練習をしているということだった。
彼女は頑張り屋さんで、練習には欠かさず参加して、真面目にトレーニングに励んでいるという話を聞いた。こちらも丹沢や尾瀬の話などしながら最近テントを買ったという話をすると、
「それって一人用ですか」と福島弁のアクセントで訊かれ、
「二人用だよ。一人用だと荷物を置くスペースがないからね」と答えると、
「えー、じゃあ、わたしも連れて行ってくださいよ。わたし雲取山に行ってみたくて。あ、寝袋はもっているので大丈夫です」
ということで、Y子ちゃんと二人で雲取山(標高2,017メートル)の縦走に来ているのである。
雲取山石尾根縦走
10時半、妙法ヶ岳山頂付近にある三峰神社を後にして南の雲取山方面に歩き始める。
三峰神社は、妙法ヶ岳、雲取山、白岩山の三峰が高くそびえていることから山号にしたのことで、妙法ヶ岳の山頂に奥の院がある。そのうち雲取山は東京都の最高峰である。
はじめの歩きはきつく、ザックが肩にくい込んでくる。ゆっくりとしたペースで樹林帯の中を歩き続ける。
道は比較的に歩きやすいのだが展望がきかない。おまけに道がだらだらとしていてあまりおもしろくない。「はやく幕営地につかないかな」と思い続けながら歩いていた。
歩き始めてから2時間ちょっと、12時40分頃霧藻ヶ峰に着く。ここでおにぎりの昼食をとる。
40分ほど休憩し、霧藻ヶ峰から1時間50分で白岩小屋に着く。さらに35分で白岩山頂。幕営地の雲取ヒュッテに到着したのは午後5時だった。
テントの設営は、事前に練習をしていたので問題なくできた。それにとてもいい場所を確保することができた。
夕食はカップうどんで手軽に済ませたが、山で食べると特別に美味い。さらに果物と菓子を食べてまったりと過ごす。
ダンロップのテントは、吹き流しのような冬用の出入り口があり、この部分を外側に出してザックを置くと室内が広く使える。寝袋を出して小さくなったザックなら2つ置くことができた。
マットを敷き、彼女とは頭の向きを反対にして寝袋に潜り込んだ。こうして初テントの夜を静かに迎えた。
そして「ああ、いい夜だなあ」と思いきや、なんと雨がテントに当たる音が聞こえ出した。「なんで買ったばかりのテントなのに雨なんか降るんだー」とボヤきたい気持ちになるが、どうなるものでもない。あまり眠れずに朝を迎えることになった。
雲取山への道に迷う
(出典:DSC_3229 | 雲取山(秩父縦走路→お祭)。雲取山山頂より | Sig. | Flickr)
翌朝になっても雨は降っていた。雨の中でテントをたたみ、予定より遅れて7時20分に出発する。
一般的なコースタイムで行けば、雲取山まで30分なのだが、道を間違えてしまい、山頂に着くまで1時間10分もかかってしまう。雨のために出発時間が遅れていた上に道を間違え、このままでは帰りが遅くなってしまうので、途中から下るルートを探したが、バスが無いようなので予定のコースを進むことにした。
予定のコースは、このあと七ツ石山から鷹ノ巣山をとおり、六石山の肩から奥多摩湖駅に抜けることにしていた。
12時、鷹ノ巣避難小屋の前で甘食とせんべいの軽い昼食をとる。少し急いでいたせいもあったのかもしれないが、鷹ノ巣避難小屋から再び道を間違えて進んでしまった。あらためて小屋まで戻って歩き出したのが午後1時25分。40分のロスだ。当初の計画より2時間半遅れての再スタートである。
時間だけでなく体力的にも消耗して3時15分、六ツ石山に着いた。あとは奥多摩駅を目指すだけである。すると2つ前に来た台風で通行止めとなっているところがあり、迂回する道を行かなかればならなかった。
午後5時10分、林道に出る。とりあえずこれで安心する。林道を1時間20分歩くと奥多摩駅についた。午後6時44分発の青梅線立川行きに乗り、立川で中央線の新宿行きに乗り換える。
座ることができてほっとしていると、斜め向かいに座っているOL風のかわいい女の子がこちらに声をかけて来た。笑顔である。ドキッとしながらも誰だろうと思っていると「鷹ノ巣山で」とか言っている。するとどうも鷹ノ巣山の避難小屋で休憩しているときに挨拶した女の子だということがわかった。
その娘の足元にも上の棚にもザックはなく、着替えも済ませてさわやかな笑顔で話しかけられたのでわからなかったのである。
どうしてそんな格好でいるのかを聞くこともできず、いまだ謎である。
まとめ
僕が中央線の車内で鷹ノ巣山の女の子に話しかけられた時、「きっとこの娘はとなりのY子ちゃんを彼女だと思って気楽に話しかけたのだろうな」なんてことを考えていた。
いちおう断っておくと、一緒に行った職場の後輩は「彼女」でもなんでもない。
Y子ちゃんは、東京に出て来て1年以上経つのに、福島弁のままで田舎から出て来たばかりという感じが抜けない素朴な女の子だった。
しかし、やると決めたら一途なところがあり、この山行のあと、大学の山岳部で岩登りだけでなく冬山にも行っている。
数年後、理由は忘れてしまったが、退職することになったとき、「もう山にはいかないのでこれをもらってください」と雑巾を袋状に縫ったカバーに入ったアイゼンを僕にくれた。
あいにく僕が冬山に登ることはなく、一度も使うことがなかったが、とても思い出に残る贈り物だった。
最後に、雲取山への道は展望がきかずあまり面白く無いということを書いたが、実はこれは森が深いということを意味していることに気がついた。
この原生林が東京都民の喉をうるおす水源地となっている貴重な森であることを忘れてはならないということである。
最後までお読みいただきありがとうございました。
では、このへんで
ダンロップテントのデザインは大きく変わっていない。
こちらも同じ構造ですね。
アイゼンてこんなのです。
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