寒が明けた2月5日、関東地方で大雪が降った。
雪が降ったら丹沢へ行こうと考えていた。
たまたまこの日の翌日は仕事が休み。
ということで、ワクワクしながら登山の準備をした。
関東地方は大雪
寒が明けて、都会では大雪となった。
今年初の雪、初雪である。
その日、昼少し前から降り出した。
初めは湿ったぼた雪で、積もりそうもない感じだった。
この日の朝、まだ雪が降りそうもないのでバイクで病院に出掛けた。帰りは雪の中を走ることになった。
雪だから、レインウェアはなくても大丈夫だろうとたかを括っていた。それで防寒着だけで出掛けてしまった。
ところがぼた雪。だいぶ濡れてしまった。
そればかりではなく、帰りの道は大変だった。
まずはヘルメットのシールドに雪がくっついて、常に手で拭う必要があった。それにその影響で内側がすぐに曇ってしまう。
せっかくバイクにはハンドルカバーが付けられているのに、グローブで拭うものだからすぐにびしょ濡れ。
それより何より前が見えなくなってくる。危険だ。
おまけに渋滞が発生した。午後からは仕事なので急いで帰らなければならない。止まっている車の脇を抜けて前に行く。そしてときどきシールドを拭う。
いつもは通勤にバイクを使っているが、こりゃ無理だ。
家にたどり着くと、すぐに濡れた服を着替えてレインウェアを着る。そしてマウンテンバイクに跨って職場に向かった。だが、雪で思うように進めない。結局開始時刻ぎりぎりで到着。
ケーブルカーは運休
こりゃ積もるぞ。そう思いながら職場から帰宅。雪が顔に当たって痛い。
ところが夜中に雨の音。翌朝にはすっかり解けていた。
天気は曇り。もう雪は降りそうもない。
結局、一番楽で安全そうな大山に出かけることにした。
大山ならケーブルカーで中腹の阿夫利神社下社まで登れる。
そこから標準タイム(無雪期)90分のコースである。
ケーブルを使うのでのんびり出ればいいや、ということで大山ケーブル駅のバス停に着いたのは11時。時間が遅いせいか、登山者の姿は見られなかった。外国人の観光客が二人と登山するのかしないのかよくわからないおじいさんが一人バスを降りた。
ここでトイレを済ませ身支度を整えて出発。
ケーブルカーの駅に着くと、バスを一緒に降りた3人の姿があった。駅員の姿は見えず、切符売り場も閉まっている。
時刻表を見ると、次の便までにあと20分近くある。きっと、出発時間近くになったら開くのだろうとベンチで待つことにした。
ところが、出発時刻5分前になっても窓口が開かない。うろうろしていると、若い女性の駅員が通りかかった。
「すいません」と声をかける。
「あ、実は雪の影響で枝が線路に落ちていて、いま除去作業をしています。当分開通する見込みはありません」
そんな、だったら張り紙でもしてくれないかなあ、と心の中で唱えながら「わかりました」と返事をした。
自然のことだから文句を言ってもしょうがない。歩いて登るしかない。
駅の外でが一緒に降りたへんなおじいさんがOD缶のガスでお湯を沸かしていた。
時計を見ると11時40分。さあ、頑張って登るぞ。
茶店前にトトロの雪だるま
ケーブル駅から少し歩くと、男坂と女坂との分岐がある。いつもは男坂を登るのだが、今回は女坂。男坂は鉄の階段があったりして滑りやすいからだ。
ここまで雪はない。分岐からしばらく平坦な道で、橋を渡って沢沿いの道になると、平坦と登りを繰り返す。そうしているうちに大山寺に到着。
ここの階段は石段の幅が狭くて急だ。ここで転けて骨折した人がいると聞いたことがある。この辺りから少し雪が残っていて、滑りそうなので慎重に登る。下りは怖いだろうなあ。
大山寺の裏手から本格的な登山道になり、雪も少しずつ増えてきた。まだ、アイゼンをつけるほどではないのでそのまま登っていく。
12時10分頃に阿夫利神社下社の階段下に到着。参道の階段をせっせと雪かきをしてくれている。茶店の前では雪かきした雪でトトロの雪だるまを作っていた。
雪かきはまだ階段の半分程度だったので、途中からは雪を踏みしめながら本殿まで登って行った。
本殿前のベンチでモンベルのリゾッタの昼食。ここで6本爪の軽アイゼンを装着。
12時50分、いよいよ山頂に向けて登山開始。最初の急な階段を登る。ちょうどいいウォーミングアップだ。
大山には何度も登っているが、雪があると様相が一変している。岩がなくて登りやすい反面、雪に埋まって登りずらい面もある。そして、雪にアイゼンの爪を効かせながらの歩行は、少しずつ体力が削られる。
1時間ほど歩いて下山する人に出会ったのは一人だけ。けれど、トレースした跡を見ると複数人が登っていると思われる。時間も遅いので、これから出会うのかそれとももうすでに下山してしまったのか。あるいは別ルートで下って行ったのか。
時間も時間なので結構必死に登って行った。大山はもう完全な雪山と化している。曇ってはいたけれど、真っ白な雪ばかり見ていたので目が疲れて雪の凹凸がだんだんわからなくなってきた。ザックを下ろしてサングラスを取り出す。
雪山でザックを降ろすのは面倒だ。今は雪が降っていないからいいようなものの、もし降っていたら、ザックを開ければ雪が入ってしまい中が濡れる。これは鳥取の大山で経験したことだ。
ちなみにサングラスはザックの雨蓋に入れておいたのでザックを開けずに取り出すことができた。なにごとも失敗した経験が役にたつ。
雪山ではルートを見失うことが怖いが、この大山はほとんど樹林帯の中を歩くので、ルートを見失う心配がないので安心だ。
頂上にだいぶ近づいた頃に、夫婦連れと思われる二人とすれ違う。男性は軽アイゼンで女性はチェーンスパイクだった。新雪でまだあまり人が歩いていないような場所でチェーンスパイクはあまり効かないだろうと見ていたら、やはり滑りながら下山していた。
14時半、山頂に到着。踏み跡は多いとは言えないが、出会った3人だけのものとは思えなかった。曇りではあったが厚木から平塚の街並みが見下ろせた。
そこで気がついたのだが、見える景色がいつもと違う。景色というよりも空気感が違う。それは以前伯耆大山で下界が見えた時と同じように思えた。おそらく雪が漂う塵をすべて綺麗に落としているからだろう。ひょっとしたら、人がもっと少なかった時代の景色はこのように見えていたのかもしれない。そんなことを思った。
山頂で写真を撮ったり、温かい飲み物(白湯だが)を飲んだりしているうちに30分が経過した。早く降りなくては。午後3時、大山山頂を後にする。
雪道の下りは、安全な場所であれば特にアイゼンを効かせなくても構わない。ゆるく滑ってくれるならその分だけ下に降りたことになる。そのうえなんだか楽しい。こうして1時間40分かけて登ったところを40分で下ってしまった。
下社では、普通の靴で歩けるくらいもうすっかり雪かきが終わっていた。そこで数人のカメラマンが雪景色の写真を撮っていた。ここからふたたび女坂を使って下って行く。
するとケーブルカーの音が聞こえてきた。どうやら復旧したらしい。けれどもうだいぶ降りてきていたのでそのまま歩いて下った。
麓のケーブル駅の横を通る時、さっき上で見かけたカメラマンたちが大きなレンズを持って下っていく後ろ姿が見えた。
最後に
大山ケーブル駅に降りてくると残念ながら温泉がない。
その代わり、本厚木の王将で一杯やった。
店に入ると雪の影響で材料がなく、ラーメン類が作れないという説明があった。
今回の大雪で物流に影響が出ているらしい。
現役時代だったら通勤が大変だったろうなあと、昔、難儀をした記憶が蘇る。
ところがこうしていまはのんびりと雪山に登り、一杯やっている。
幸せを噛み締めて、もう一杯。
では、このへんで
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