前回は神坂峠近くの萬岳荘に到着したところまでだった。
今回はいよいよ登山開始だ。
ところがこの恵那山、霧のためほとんど姿を現すことがなかった。
けれども一瞬だけその姿が見られたこと、遠く南アルプスの山々の頂が眺められたことは幸運だった。
体調は万全、なのに
午前4時、萬岳荘1階の駐車場のテントで目覚めると、すぐに朝食の用意を始める。腹がへっては戦はできぬ。
テントの入り口を開いてお湯を沸かしていると、深夜にやって来た車の男性がやって来た。
「ここに車を停めても大丈夫ですかね」
駐車場は他に2台しか停まっていなかったし、前の屋外駐車場にはまったく停まっていなかったので、
「いいんじゃないですか」と適当に答えた。すると
「ここにテントを張るのもありなんですね」
いかにも屋根あり駐車場にテントを張るのはどうなの? という皮肉的なオーラを放っていた。
「ここに張るように管理人に言われたんですよ」と、ちょっと不機嫌そうに答えた。
「わたしたちはこの上にテントを張ろうと思っていまして」と言って向こうへ行ってしまった。深夜に眠りを邪魔されて、しかも朝から皮肉かよと嫌な気持ちになった。
口直しに前日に萬岳荘の周りを歩いた時に咲いていた花をご紹介。
神坂峠から登り始める
舗装された道を少し下っていくと、左側に車が数台停めてある。峠の一番近い場所には十台くらいの車が停めてあった。みなまだ暗いうちから出て来たのだろう。
神坂(みさか)峠は霧に包まれていた。
恵那山登山口から登り始めると、いきなりの急登で朝露に濡れた熊笹が登山道に迫り出して来ていた。なるべく体を濡らさないようにストックで押さえながら登っていく。
しばらく熊笹の道が続きアップダウンが急である。するとすぐに千両山と書かれた標識の立つ富士見台パノラマコースの山頂に出る。ここから恵那山がよく見えるらしいが、今日は全くだめである。
霧は千両山を過ぎると少しずつ晴れてきて青空も見え出した。そして、背中にしていた太陽が右手に見えるようになった。樹林帯の尾根道を進み、一気に下っていくと鳥越峠に達する。神坂峠から45分。標準タイムと同じだ。
鳥越峠からウバナキまではほぼ平坦な道である。それにしても「ウバナギ」とは変わった名前だ。そのウバナギから北の斜面をのぞくと大きく崩落しており、もしも今立っているところが崩落したら終わりだと思って後退りした。あとでガイドブックを読み直したら、崩落の恐れがあるので近づかないように注意書きがあった。
そこから大判山までは、鳥越峠までの道とウバナギまでの道をミックスしたような感じになり、熊笹も少し離れていて歩きやすかった。けれど、ふたたびガスが濃くなってきた。
それにしても蒸し暑い。なんだかもう疲れてきた。
6時55分、大判山に到着。大判山はベンチが七台設置されていて、休憩するのにちょうど良い場所になっている。ここで先行者の若者とおばちゃんの二人連れと挨拶を交わす。
ここまではほぼ標準タイム通りに歩いてきたが、昨夜例の車に起こされたためなのか、どうも足が重かった。
天狗ナギから恵那山
次の目標は天狗ナギである。一度大きく下ったあと道は緩やかな上りが続く。延々と上っていく感じがやっとなだらかになったと思ったところで<こだまエリア>と言うなんだか不思議な空間にたどり着いた。その空間(おそらく原生林)には木の霊が宿っているような、そんな感じがした。
その「こだまエリア」と書かれた看板のある木の根方で長袖のシャツを脱ぎ、Tシャツ1枚となった。そしてアームカバーをはめる。
その先からこれまでと違って石がゴロゴロし始めた。
天狗ナギもやはり崩落地で北側の斜面が剥き出しになっていた。ただ、ふたたびガスが濃くなってきていて、下までは見えない。
天狗ナギをすぎ、天狗の頭を過ぎると晴れてきて、恵那山が壁のように前に立ちはだかるっているのが見えた。
そこから分岐までの道はひたすら忍耐が必要で、中間あたりを過ぎるとさらに傾斜が増して急登になる。崖のような斜面を登り、ようやく分岐にたどり着くと、普段はあまり水が減らないのに今日は珍しく水筒の水をほとんど飲んでしまっていたので、ザックを降ろしてエバニューの2L用に入れてきた1.5Lの水を取り出してペットの水筒に移し替えた。
するとそこに例の深夜の車組がやって来た。50代くらいの男性の連れは女性二人で、30代と50代といった所だろうか。話ぶりからすると職場の同僚か。
先に行ってもらおうと思って少し待っていたが、男性が、今登ってきた神坂峠のルートは最近できた道で、以前はこの分岐のもう一本の前宮ルートを使っていた。最近は広河原のルートを登る人が増えているなどと講釈を始めたので先に行くことにした。
船をひっくり返したような形の恵那山なので、分岐から恵那山山頂への道はほぼ平坦だった。その船底の龍骨部分を歩き始めると、なぜか右手に枯れ木の林が広がっていた。
先へ進むと小さな祠があり「二乃宮社 剣神社」と標柱に書かれていた。
この先もいくつかのお宮がある。
この頃ちょうど霧が晴れて遠くの景色を見ることができた。
各お宮にお参りしながら進んでいく。ちなみに二乃宮から始まっているが、実は一乃宮は例の前宮ルートにあるらしい。
そうやって進んでいくとひらけた広い場所に出て、左手に小屋があった。そこは恵那山山頂避難小屋で、その手前に恵那山最高地点を通過したはずだが気付かずに通り過ぎてしまった。
恵那山は、山頂がこの先の2190メートルのところで、最高地点の2191メートルではないのである。
9時半と時間も早いので、休憩は取らずにまずはこの先の山頂まで行くことにした。明るい山頂の道を行くと板を置いただけの木道があり、そこに木花咲開姫を祀った五乃宮(富士社)があった。
そして伊邪那大神と伊邪那美大神を祀った恵那神社奥宮本社が現れる。
恵那山の名前は、イザナギとイザナミの二柱の胞(えな=へその緒)を山頂に納めたことから胞山となり、それが恵那山に変化したと言われている。
お参りをして先へ行くとすぐそこが恵那山山頂だった。
山頂からは展望が効かない。展望台があるが登った人が何も見えないというので登るのはやめにした。
セルフタイマーで写真を撮っていると、そこへ大判山で出会った若者とご婦人との二人連れが後からやって来た。
「岩山には登られましたか」
ご婦人が訊いた。
岩山とは避難小屋の裏手にある小さな岩の山で、避難小屋に着いたときには気が付かなかった。歩き始め、振り返った時にその岩山とその上に登っている人が見えた。
「いえ、まだ登っていません」
「富士山が見えましたよ。今のうちにぜひ登って来てください」
そう言われたが、この先もちょっと見たかったので広河原からのルートもちょっとだけ見に行った。するとそちら側はもう下りになっていた。地図を見るといったん下ってから少し平らな道になるようだ。
5分くらいで再び山頂に戻る。それから急いで避難小屋裏の岩山に向かった。
岩山には誰もいなかったのですぐに登ってみた。まっすぐ立てるような場所はなく、頑張っても2、3人しか登れない。
そしてそこからは富士の山が見えた、といいたいところだが、そこにあるはずであることはわかるがぼんやりとしていてどうも富士の形は探せなかった。
岩山を降りて、板を置いているだけのベンチに腰掛けて昼食にする。お湯を沸かして注ぐだけのフリーズドライ。ついでに味噌汁もフリーズドライ。じつにお手軽だ。
昼休憩を予定通り1時間とった。11時下山開始。11時22分分岐に到着。いよいよ長い長い下りが続く。もう脚は疲れて、いや脚だけじゃない、もうヨタヨタである。すでに何人かに追い越された。
天狗ナギまでやって来た時には再び霧が出始めていた。
大判山では3人が休憩していた。百名山の話をしている。こちらは疲れて話どころじゃなかった。3人が下りていくと4、5名のパーティがやって来た。それを合図にこちらも下山。
富士見パノラマ台の千両山では、再び霧のため恵那山は拝めなかったが、ときどき霧が晴れて恵那山の端っこだけは見ることができた。
最後に
神坂峠には14時半に到着した。
千両山ではアブに服の上から噛まれた。そして歩きだしてすぐに倒れた木を跨いだ時に前回登山で怪我をした右脚の脛のほぼ同じところをぶつけてしまった。あとで見るとやはり皮膚がめくれていた。
萬岳荘に戻り管理人に利用料金を支払う。
管理人は気さくな方でNHKで放送した百名山のアドバイザーを務めていたということだ。夜には星空観察会を開くのでぜひ参加してくださいと言われた。8時、12時、そして深夜3時の3回行うということだった。
あいにくの天気になり、星座観察は望めないだろうなと思い、ゆっくり疲れを取ることにした。
ところが深夜、2時頃と3時頃に車のエンジンがかかり(暖機運転をしているように思えた)、眠りを妨げられてしまった。
翌朝、ビックバイクに乗った二人連れに話を聞くと、8時、12時は曇っていたが、3時は晴れて星がよく見えたと教えてくれた。その方は星空を見るためにやって来たそうだ。バイクのナンバーは名古屋だった。
帰りはスーパーカブで木曽路19号線を気持ちよく走れた。どうしてかと考えたら信号が少ないことに気づいた。
昼は道の駅はくしゅうで弁当を食べ、近くの尾白の湯で汗を流す。
しかし自宅に近づくにつれて次第に気温が上がっていく。ああ、木曽の23度が恋しい。夏でも寒いヨイヨイヨイ🎵
では、このへんで
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