Hakuto-日記

定年後を楽しく、生きたい人生を生きる!

霧のつるぎと雨のいしづち 【石鎚山】

石鎚登山ロープウェイ下谷駅から

レンタカーで剣山から霧の山道を下り、徳島自動車道、松山自動車道を通って夜8時、今夜の宿、西条市にあるお遍路さん向けの「お宿すけ家」に到着。

1階のフロントに入って奥に向かって声をかける。応答がない。

カウンターの上には食べ終わった食事のお盆が載せてある。

少々不安になりながらカウンターの上をよく見ると、隣に置かれた書類に自分の名前が書いてある。ここで間違いない。19時到着予定としていたので待ちきれなくなってどこかへ用事で出掛けているのだろうか。

何度か声をかけるが静かなまま。待っていても仕方がないので電話をかけてみる。するとすぐに応答があり、1分も経たずに管理人が現れた。

 

やって来たのは元気なおばちゃん。

「お待たせしました。車が一台増えているなと思っていたんです」

「遅くなってすみません」と遅れたことを詫びる。

なんだ、それならフロントに来ていてもらいたいものだと心の中ではそう思う。

明日の出発予定時間などを聞かれ、石鎚山に登るつもりだと答える。

 

お遍路さんの宿

翌朝、計画よりも早い時間に出発する。それはお宿のおばちゃんから駐車場がいっぱいになって止められなくなることがあると聞いたからだ。

ロープウェイの始発は8時40分、移動時間は50分。そこで6時に準備を整えて部屋を出て外の洗面台に向かう。そう、ここは洗面台も風呂も外にあるのである。

 

ちなみに昨夜おばちゃんとは結構話をして、いろいろと親切に教えてくれたのだが、風呂や洗面の説明はなかった。たぶん忘れたのだろう。そしてただ部屋の番号だけ告げられた。

全ての部屋は外から出入りするようになっていて、外からの鍵はない。内側から錠を下ろすようになっていた。さすが素泊まりの宿、そしてお遍路さんの宿である。

 

宿の設備はともかく、おばちゃんは親切だった。なんと朝早いのにお弁当を作っておいてくれた。特別料金などはない。これが四国のおもてなしなのだと思った。

 

お弁当の内容はいなり寿司。それにバナナとゆで卵、おまけにキットカットが一つ別の袋に入っていた。

 

 

石鎚山に登る

 

7時頃に石鎚登山ロープウェイ下谷駅下の駐車場に到着する。まだ一台しか停まっていなかった。ここにはロープウェイ利用者専用の駐車場はなく、京屋旅館か泉屋旅館の駐車場を利用することになる。停めたのは手前の泉屋のほう。ネットで調べたところでは1日700円だったが、実際は500円だったのでなんだか得した気分になった。

 

車の中で前日にコンピニで買ったおにぎり弁当の朝食を済ませ、7時半頃車を出る。

ロープウェー乗り場に行くとそこで働く人がつぎつぎと出勤してきた。始発が出るまで待合室の中を眺めたり、外の景色を見たりして時間をつぶした。そして最初の便に乗れないと困るので、かなり早めに列に並ぶ。

 

始発のロープウェイの箱は満員だった。残念ながらガスで景色はほとんど見えない。

 

約8分ほどで山頂成就駅に到着。念のためトイレに行ってから、8時50分に雨の中に出て行く。他の人は駅の中で出発の準備をしていた。ぼくが今日の一番だと思っていたが、すぐに若者に追い抜かれ、しばらくして先行者がいることがわかった。トイレに行っている間に出発した人がいたということに気づく。

雨の中を出発

歩き始めてすぐに追い越される

石鎚神社成就社

山頂駅から登山道をさらに登って行くと、旅館や売店などがある石鎚神社成就社に着く。ここから長くゆるやかな坂がしばらく続く。なるほど、ここが八丁坂と言われる所以だ。この坂の鞍部が八丁で、通りかかったのは9時22分だった。ここから今度は登り返して行くが、こちらの登りは少しずつ急になって行く。

 

だんだんきつい登りになる

9時56分、前社森の手前で「試し鎖」が現れる。ここに立ててある注意書きなど何も見ないで鎖にとりかかったので、登った後に下りがあるなんて思わなかった。帰りによく見たら、「上りの鎖を登った先は、険しい下りの鎖場です」と書いてあった。

 

迂回路もあるが、それほど大変そうでもないので雨の鎖に取り付く。ここは鎖を補助として使う感じで登ることができた。

登り終えるとさらにその少し上にお地蔵様の像があったのでそこで手をあわせる。ここが前社森だろうか。

 

下りでは、途中で下りられなくなり、登り返して隣の鎖に移ってようやく下に降りることができた。

試し鎖

鎖場の頂上(ここが前社森かな)

下りの鎖場

なお、この鎖場は、上り下りを合わせると67mである。ただ、ガイドブックには78mと書かれている。

 

鎖場を抜けると売店があった。すでに店じまいしてロープが張られており、中に入ることはできなかったが、多少軒先で雨宿りができた。そこで、だいぶ体が暖まっていたので中に着ていたシャツを一枚脱ぎ、行動食のソイジョイを食べた。

 

そうしている間に迂回路を登って来た中年の女性がやって来た。

「山頂はこっちですか?」

「向こうは鎖場なので多分そうだと思いますよ」

「鎖場を登って来たのですか? すごいですね。わたしは雨で滑りそうなのでやめました」

「ここが最初の鎖場なので一の鎖でしょうか」

 

このとき試し鎖のことは忘れていて(立札も読まなかったので)、てっきり一の鎖だと思っていた。

そんな会話をしてからその女性は頂上に向かっていった。ぼくは少し遅れて歩き始めたが、じきにその女性に追いついた。道を譲ってくれたので先に進む。

 

10時28分、夜明け峠通過。10分後、続いて一の鎖が現れた。ここで間違いに気づく。この鎖場は33mであっという間に過ぎた。

 

一の鎖のあと登山道に出ると、さきほどの女性がやって来た。

「ここが一の鎖でしたね。さっきのは試しなんとかというやつみたいです」

まずはさっき言った誤りを訂正した。そしてぼくが先にたって歩く。

 

10時49分、急坂を登り一息入れて上を見ると鳥居が見えた。そこから少し登ると休憩所があった。二の鎖小屋らしい。中に入ると、外人の3人連れが弁当を食べていた。もう1人ガイドらしき日本の女性が少し離れて座っていた。ぼくはその間に入ってお宿のおばちゃんが作ってくれたお弁当を食べはじめた。


少し後から先ほどの女性が中に入って来てぼくの隣でパンを食べ始めた。そう言えば外国人のうち二人は夫婦のようで、彼らは食パンを持って来ていて、それに何かを挟んで食べていた。あとの一人は日本式のお弁当だった。

 

パンを食べ終わって先に外に出た女性が、「なんだか冷えて来ましたよ」と言った。外はますます靄って来ているようだった。

 

11時13分、二の鎖の袂に着く。実はさっきからの鎖場で、手が冷たくなってきたのがしんどかった。気合を入れて鎖に取り掛かる。最初はそれほどではないと思ったが半分ほど登るとだんだん厳しくなってきた。ここの鎖は65メートルある。ここを通過するのに10分ほどかかった。

 

11時33分、三の鎖の基部に到着。ここのは68メートルだ。見上げると、まるで垂直のような壁で、ガスのため上部まで見通すことができなかった。そしてここは二の鎖よりも厳しかった。鎖が岩場から離れている部分があり、そういった場所では靴の先を鎖の穴の中に突っ込んで鎖だけで登らざるを得なかった。落ちればおしまいだ。そうして何とか登るとそこが山頂だった。時計を見るとここも登るのに10分ほどかかっていた。

二の鎖手前の休憩所、避難小屋としても使える

二の鎖

三の鎖小屋

三の鎖基部

三の鎖、上から下を見下ろす

こうして11時45分、石鎚山に登頂した。しかし周りは霧で何も見えない。そして冷たい雨。しかし厳しい鎖場を乗り越えてホッとした気持ちとやり遂げた高揚感があった。記念写真を撮り終えるとすでに心は下山に向かっていた。

三の鎖を左側に這い上がったところの石畳

避難小屋と頂上社

                                                                               

ここで地図を広げてみればよかったのだが、実は石鎚山の最高点は隣の天狗岳だったことをすっかり忘れてしまっていた。

 

天狗岳登頂を忘れていることに気がついたのは、家に帰ってからリーフレットの地図を眺めている時だった。ドジもいいところだ。まあ、どうせ登っても周りの景色は見えなかっただろう。だが、気持ち的にはやり残した感がある。

ここに天狗岳が見えていれば

ともかく早く下山しようと、5分ほどで下山を始める。すると雨がボツボツとレインウェアのフードを叩き始める音がした。よく見ると雨がみぞれに、いや、霰に変わっている。これから雪になって道路に積もったら下りられなくなる。そう思って急いで山を降りていった。

雨は霰になった

 

京屋の石鎚山温泉

山頂到着は予定よりも30分ほど早い。下りも30分短縮したら1時間早く下山できることになる。もし早く下りられたら温泉に入ろう。そう思いながらどんどん下って行く。

上りと下りに分かれている階段

ただ、ふと目に入った小道の先に石の祠が目に入った。その先の向こうが岩山になっている。ほんの僅かなので道なき道を岩の上まで登っていった。後で調べるとそこは行きではまき道になっていた剣山(1631m)であることがわかった。

山道からそれた場所に

その先の岩山

りっぱなブナの森

また、帰りには石鎚神社成就社に立ち寄ってお参りをした。

神門

石鎚神社成就社

そして13時47分、石鎚登山ロープウェイ成就駅に到着。

成就駅はすぐそこ

山頂成就駅

駅の中に入ると暖房が効いていてとても暖かかく、大勢の人が次の便(14時00分)を待っているようだった。

するとその中に二の鎖小屋で一緒だったあの女性がいた。

お互い「寒かったですねえ」と挨拶する。

「まるで修行しているみたいでした」とその女性は言った。

 

そこにロープウェイの職員から「臨時便が出ますが乗られる方はいますか」と声がかかる。

せっかくなのでそれに乗ることにした。他の人たちはあたたかい待合所でくつろいでいる。

結局臨時便に乗ったのは、その女性とぼくともう一人の男性の3人だけだった。

 

その女性は東京から来ている方で今日帰るのだという。伊予西条からここまでは路線バスで来ていて、高速バスで渋谷まで帰るのだという。そして当然百名山を目指していた。先週は磐梯山に登り、今回の石鎚で38座目ということだった。こちらは44座目であると言った。

 

ロープウェイを降りてからも話しながら下る。そうしたらさっき一緒だったもう一人の男性とは剣山で一緒だったそうで、泊まったホテルも一緒だったそうだ。そしてやはり公共交通機関でやって来ているということだった。

 

京屋旅館の前まで来たところで、予定より早く降りて来たので温泉に入って行くつもりだと言った。

温泉の入り口まで来ると、番人が呼び込みをしていた。入り口には入浴料500円、白濁湯だと書いてある。

その女性も誘われたが、着替えを持って来ていないということで躊躇っていたが、もう一人のホテルが一緒だったという男性が入るというので、結局3人とも入浴することになった。

ちなみに呼び込みの番人は中国から来ているということだった(これはその女性が聞き出した)。

 

そのもう一人の男性というのは、長野の人で、公共交通機関を使ったのは今回が初めてだという。しかしやっぱり待ち時間などで自由に行動ができないという不便さを感じるということだった。普段はやはり車だそうだ。

 

その方も今年中に登れる山をやりくりして来ているようで、先週は大山に登ったということだった。考えることは皆おなじようだ。

 

石鎚山温泉は実に良い温泉だった。本当によく温まる。鄙びた感じもいい。それに石鹸とシャンプー、ドライヤーまで置いてあるのは本当にありがたかった。

 

15時頃長野の男性と共に上がる。東京の女性もちょうど一緒に上がって来た。

帰りのバスの時刻を尋ねると、発車までは15分くらいあるということだった。

「またどこかの山で会うかもしれませんね」と言って二人と別れた。

 

 

 

最後に

朝、洗面にいった時、昨夜お盆の食事を食べたと聞いていたフランス人の女性が、軍隊のポンチョ見たいのを着てお遍路に出かけるところだった。

石鎚山の駐車場から走り出して数分下ったとき、その女性が登ってくるのが見えた。

雨の中、お宿から約22キロを歩いて来たのである。

きっと、ぼくと同じお弁当を食べたのだろうな。

 

石鎚山。とりあえず弥山には登ったので1座制覇ということにする。

ただいつか機会があれば天狗岳に再チャレンジしたいと思っている。

しかし毎週登山に出かけるというのは計画、予約、準備などで大忙しである。せっかく出かけた先で登り残しがないように気をつけたいと思う。

 

では、このへんで

 

 

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