智恵子の言う本当の空とはどんな空なのか。
安達太良山へ本当の空を見にいった。
それは、青空、曇り空、そして雪の空だった。
新幹線で郡山へ
今回もニコニコレンタカーを利用する。店舗はガソリンスタンドで、JR郡山駅から1キロくらい離れていた。それでもスタッドレスタイヤ装着で価格がすごく安いのでこちらを利用することにした。
郡山駅に着くと、晴れてはいたがなんだか怪しい雲が迫ってきていた。
車で走り出すと、左手前方になだらかな山が見えてきた。おそらくあれが安達太良山だろう。これから登る山が見えると気持ちが昂るものだ。
しかし、それにしても風が強い。今回借りた車はトヨタライズ。クロカンぽいデザインをしている。それだけに横風に煽られる。
ちなみに四国登山ではホンダフィットを借りた。どうしてもそれと比べたくなる。正直言って全体的な作りはフィットの方が上に感じた。
ライズに乗っている方には恐縮だが、フィットの方が走りが滑らかなのである。人の感覚に合わせたセッティングが心地よく感じるのである。加速時の滑らかさや停止時の停止の位置決めがスムーズなのである。
それにハンドルの形状は断然フィットが上である。だが、もちろんライズにも良さがある。それはハンドリングのクイックさやサスの硬さ、それにマニュアルモードがあって自分の好みに合わせて走ることができることである。
これは、ランクの違いが影響しているかもしれないので、あくまでもニコニコレンタカーが所有している車での比較であることをお断りしておく。
レンタカー話はこれくらいにして登山の話に戻ろう。
今、目指しているのは安達太良山ロープウェイ乗り場。だがカーナビに案内されて走っていても道の脇にロープウェイという文字が全く現れてこない。たいていは案内表示があるものである。少々不安になりながら山道を登っていく。だが、四国のように狭い道ではないのでとても走りやすい。
広い駐車場が現れてナビの案内が終了する。車は数台しか停まっていない。人があまりにも少ない。車のドアを開けて登山準備をするが、扉が閉まってしまうほど風が強い。
準備を整え、ロープウェイ乗り場に向かう。左手奥にあって駐車場からは見えなかった。だがちょっと待てよ、ロープウェイが動いていない。今日が運行日であることは事前に確認している。果たして乗り場の前まで行ってみると<強風のため運休>の文字。ガーン!
さて、今は11時。どうするか。予定ではこの時間はロープウェイの上の駅にいることになっている。到着が遅れたのは道が混んでいたり、途中のコンビニで休憩したりしたからである。
それにしても困った。だが、下山が1時間くらい遅れてもまだライトをつけるほどではないだろう。ということで歩いて登ることにした。
山を見上げると、ところどころ白くなっている。雪が降ったようだ。ここのところ冬型の気圧配置が日本を覆っている。西日本でも雪が降ったという。
雪解けの登山道
11月。この季節はいつ雪が降ってもおかしくない。そう思って軽アイゼンを準備して来た。これまでは4本(プラス1)爪の本当に簡易的なものだった。それをもう少ししっかりとしたものと言うことで6本爪のものを急いで買って来た。だから、多少の雪ならば行けるはずだ。
ロープウェイ乗り場のある奥岳からの登山道は、ロープウェイとは反対側にあり、車が通れるくらいの道を進んで、その後あだたら高原スキー場の端っこを通って行く。リフトの下を行く感じだ。
この辺りは雪が解け始めていて、少し窪んだ山道は川のようになっていたり、解けたシャーベットのようになっていた。
リフトの上あたりに来るとだんだん登りがきつくなる。けれど木々や岩などの壁に遮られて風は当たらなくなった。
急な登りを抜け出すと、なだらかな道になる。
シャクナゲが見られるようになったなあと思っていたら、その先に五葉松平の標柱が立っていた。
そこから少し登ると下に街を見ることができた。二本松市だろうか。
ここに智恵子抄の本当の空と書かれた柱が立っていてその向こうに安達太良山が見えた。そしてそこに黄色い服を着た同年代の女性の姿があった。
ここまで歩いて来て、女性のものと思われる踏み跡をずっと見て来たので、その踏み跡をつけた女性だろうと思われる。
後から聞いたらぼくより30分くらい前に登り始めたらしい。
「これから山頂まで行ってこられるのですか?」
「ええ、そのつもりです」
「くろがね小屋のほうを回って下りられるのですか?」
「そのつもりでしたが、ロープウェイが運休で時間が遅くなったので、この道を引き返すほうが早く降りられそうですね」
「私はゴンドラが動いていないので、ここまでで下山しようと思っているところです」
とのことだった。そして、本当の空の柱の前で写真を撮ってあげた。
その方は宮城から来た方で、何度か登りに来たことがあるようだった。百名山を目指しているわけではないらしい。
お互いに「それじゃ、気をつけて」と言うと、来た道を戻っていった。
もうすぐ12時半になろうかとしているところだったので、ここで昼食にする。今朝ポットに入れて来たお湯を、モンベルのリゾッタとフリーズドライの味噌汁を入れたカップに注ぐ。
空になったポットを岩の上に立てておいたら風で転がってしまった。ここは風を遮る場所がなく、身を屈めているのが一番だった。
食事をしながら横を見ると、向こうでもさっきの女性が食事をしていた。そして食べ終えると再びこちらに向かって歩いて来た。
「ゴンドラの音が聞こえて来たので山頂まで行ってこようと思います」といって安達太良山の頂上に向かっていった。
少し遅れてぼくも歩き出す。女性が言っていた通りなだらかな山道だ。ただしほとんど雪で覆われていた。雪の下は木道らしい。
途中からだんだん上りになり、ところどころごろごろした岩が露出していた。なぜかそういったところだけ雪がついていなかったりした。
立ち止まって下を見ると、雲の下に街がまだ見えていた。さきほどの女性にはこの辺りで追いついて先に行かせてもらった。
山頂に近づくと、小雨が降り出した。しばらくウインドブレーカーで凌いでいたが、だんだん濡れて来たのでレインウェアを着ることにする。
上に登るにつれ、雨は霰に変わっていった。くろがね小屋方面への分岐を過ぎると笹原の風除けがなくなって、まさに岩がゴロゴロした火山になった。すると強風がもろに吹きつけてくる。
安達太良山山頂
視線の先に黒く標柱が見えて来た。近づけば安達太良山と白い文字で書いてある。ここが山頂か。ここでひとまず記念撮影。
そうしていると、さきの黄色い服の女性がやって来た。ここでも写真を撮ってあげる。そして後ろに見える岩山には登れないのかと尋ねると、あそこが本当の山頂で登れると言う。女性はここからすぐに下山を始めた。ぼくは荷物を置いて岩山に向かった。
本当の山頂に行くために岩山を半周くらいした。幸い風下側だったのでそれほど苦労はしなかったが、狭い山頂では強風が吹き荒れていて写真を撮るのにも苦労して、何回も撮り直した。
ふたたびザックを置いた場所に戻り、鉄山の分岐まで行こうかとも考えたが、真っ直ぐに立っていることもできないくらいの風と周りが何も見えない状態なので危険であると判断して来た道を戻ることにした。
ところが下りの場合、広い岩原では踏み跡が見えず、登山道がどこかわからなくなる。方角を頼りに下っていけば登山道になるだろうと思っていたが、雪がついたところまで降ると、そこに踏み跡が全く見えない。
これは違うところに降りて来たなと思って登り返す。そうして再び下るとまた同じ場所に出てしまった。まずい。そこでスマホのGPSで現在位置を確認したところ、だいぶ右方向にずれてしまっていることがわかった。
少し登り返して左方向に進むとロープが張られているのが見えた。そのロープに沿って下ると踏み跡があった。よかった。ここでやっとホッとする。
この下りでは上りのときよりもだいぶ下で黄色の女性に追いついた。
「さっきすれ違った人の情報ではゴンドラが動き出したようです。今も動いているといいですが」
「動いているなら乗っていこうかな」と言うと、
「私は乗って行きます」との強い言葉が返って来た。
坂がだんだんなだらかになり、木道らしき上に積もった雪を踏み締めていくと、ロープウェイ方面への案内があった。駅に着くと、ゴンドラは一見動いていないように見える。やはり止まっているのか。
構内に入り、話し声のする方に向かって尋ねてみたら「動いてますよ」との返事。よかった。ひとまずトイレを借りて戻ると黄色の女性が歩いてくる姿が見えた。入ってくるのを待って「動いているそうですよ」と声をかけた。
切符は自動券売機で買うようになっていた。ぼくはモンベル割で100円も安く買うことができた。女性もモンベル会員でJAFの会員でもあると言うことだったがカードを持っていないといって正規料金の1200円で購入していた。ちなみにJAFは50円引きだった。
せっかくなので同じゴンドラに乗り込む。
その女性の話では、雪山をスノーシューで歩いていて膝を痛めたので、下りにこのロープウェイが乗れる安達太良山が気に入っているとのこと。それで何度も登りに来ているとのことだった。面白いのはご主人は全く登山をしないので、下で車で待っているのだと言う。なかなか活動的な女性である。
ゴンドラを降りると、
「秋はここに長い行列ができるんですよ。それに火口付近の景色もすばらしいのでぜひまた天気の良い日にいらしてください」
そう言ってご主人の待つ車の方へ歩いていった。
最後に
安達太良山の雪。それは前の晩に降ったものだと言う。
さすがに女性のコミュニケーション能力は高く、すれ違った人からそう言った情報を得ていた。
ただ、情報元の前日と今日登った人は、昨日は登山道が凍っていたので今日の雪の方が歩きやすかったと言っていたということだった。
ぼくも雪山気分を味わえたのは良かったが、下り坂の天気というのはあまり気持ちが良くない。早く登ってこなくっちゃと言う焦る気持ちが生まれ、急ぎ足になった。
よかったのは、雪の上を歩くときは少し高く足を持ち上げる必要があることがわかり、大腿筋をいつもより使うことなどもわかったことである。
このあと、明日の磐梯山を目指すために猪苗代の宿に向かった。
では、このへんで
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