安達太良山から磐梯山に登るべく、猪苗代に移動した。
山の中に入ると小雨が降って来た。
長い長い土湯トンネルに入る。
トンネルと抜けるとなんと激しい雨。
山の向こうとこちらではこんなにも気候が変わるのか。
なんとか磐梯山に登りたい。
さて、明日は晴れるだろうか。
猪苗代のゲストハウス
雪の安達太良山を頑張って歩いた。
急いだつもりだったが標準タイムとほぼ同じだった。
やはり雪道は時間がかかるものだと思った。
ああ、疲れた。
熱い風呂に入りたい。
だが、今日の宿はゲストハウス。多分シャワーしかないだろう。
暗くなって宿のに到着。
駐車場はどこだろうと思っていたら、若いオーナーらしき人がライトを持って近づいて来た。待っていてくれたのだ。
オーナーが先頭に立って駐車場まで案内してくれ、小雨の中をぼくが荷物をまとめて外に出るまで待っていてくれた。
宿は、民家を改築したものらしい。内装がとてもすっきりと綺麗に作られていた。
指定された部屋にはベッドが4つあり、すでにひとりの宿泊客が入っていると言う。
中心がラウンジになっていてかなり広く作られていた。そのなかにバーが併設されていて、飲み物のほかに食事も作ってくれる。
「明日は何時頃出られますか?」
「明日は磐梯山に登ろうと思っているので6時半頃出ようと思います」
「どこから登られるのですか?」
「猪苗代のスキー場のあるところから登ろうと思ってます」
「それならここから10分くらいで着きますよ」
「予報では明日は雨らしいです」
「晴れてくれるといいですね」
悪天候のため登山中止
翌朝、ラウンジの広い窓から見える外には雨が降っていた。
それもけっこう強い雨だ。
本来なら磐梯山が見えるであろう窓からの景色は白い靄の中である。
この雨なら山の上は雪になっているだろう。
安達太良山にもあれだけ積もっていたのだから、さらに降れば歩くのは難しいだろう。
そう判断して登山を中止することにした。
用意して来たコンビニのおにぎりを食べながら、バスの発車する時間までどうしようかと思案する。
そうだ、温泉に入ろう。
近くの温泉を探す。たくさんある。どこにしようか。
レビューを見ていると「森の旅亭 マウント磐梯」が良さそうだ。
ここからだと車で約30分。10時半から入浴できる。ちょうど良い。
10時までのんびりして出発。昨日走った道を戻っていく。
ホテルに近づくとなんと雪が降り出した。
傘を差しながら玄関にむかう。
フロントで入浴したいと申し出ると、
「現在清掃中なので、男湯は貸切風呂になります」
ここの良いところはさまざまなお湯が楽しめるというところ。心の中で「残念」だと思うが、ほかに行くのも大変なので妥協した。
貸切風呂はすでに4人が入っていた。内湯は3人入っていてぼくが入るともういっぱいという感じ。
そとに露天風呂があるらしい。あとの一人はきっと外にいるのだろう。
内湯の3人はすぐに出ていった。
露天風呂に行ってみる。
やはり一人入っている。
「雪ですね」
その人が言った。
「ここにはよく来られるのですか」
「近くにいるのですが、初めて来たんですよ。どちらからですか?」
「神奈川県からです。磐梯山に登ろうと思っていたのですがこの天気なのでやめました」
「富士山には年に2回くらい登っています」
「わたしは一度でもういいと思いました。富士山は眺める山だと思います」
「今年は箱根の温泉に行って来ました。一泊5万円もしたので孫を連れていったら大変でした」
十割蕎麦
そんなことを話して温泉から上がって外に出ると雪は止んでいた。
十割蕎麦の看板を見ていたので昼は蕎麦が食べたい。
近くに二軒見つかった。
そのうちの一軒に行ってみる。
走っていると日差しが差し込んできた。一瞬、登るべきだったかと思ったが、やはり雪が深くなっているだろうと思い直す。
蕎麦屋に入ると、ご主人がストーブに当たっていて客はいなかった。
かき揚げせいろセットを注文する。
するとご主人は奥に向かってオーダーを伝えた。
すると作るのは別の人か。
出来上がりを待っていると夫婦連れの客が入って来た。
ご主人がぼくのせいろセットを運んできて、かき揚げはセリだと教えてくれた。これに蕎麦の実と刺身こんにゃくが付いてきた。
そのあと奥から女主人が現れる。やはり調理は奥さんがしているようだ。
すると女同士で色々と話し始め、その後、女主人はご夫婦に大根の塩漬けを「食べてみて」と運んできた。その後ぼくにも。
こうしてこの次には山椒の実。その次に「飲んでみて」と大根のスープを運んできた。
それは、赤い大根と蕎麦の実のスープで胡椒が効いた食欲をそそるもので、大根の食感がとても良い感じだった。
極め付けは蕎麦湯だった。
蕎麦つゆに入れた蕎麦湯を全て飲み終わってから、熱い蕎麦湯を入れ替えて持ってきてくれた。
つゆはもうないので蕎麦湯だけをいただく。するとこれがすごく旨いのだ。やはり十割蕎麦だ。
こうしている間にも女主人はご夫婦とずっとおしゃべりをしている。
「スープには出汁は一切入れていないんです。最近は何でもかんでも出汁を入れるけど、入れなくても大根の味がちゃんとでるんです」
こうして注文した以外にいろいろとご馳走になっていると、外でまた雪が降り出した。それも吹雪のようにたくさん降っている。
「この降り方では積もらないね」
喋る機会のなかった店のご主人が言った。
それにしても目まぐるしく天気が変わるおかしな天気である。
店を出て郡山にレンタカーを返しに向かう。
少し下ると雪は止み、また日差しが差し込む。
戊辰戦争の記念碑が目に止まり、駐車場に入ってみる。
そこには「母成峠古戦場」と書かれていた。
予定より早く郡山に到着し、レンタカーを返却。
「タクシーを呼びますか。バスもありますよ」
若い女性の店員が愛想よく言った。
「歩いていくので大丈夫です。磐梯山に登ろうとしたけど、天気が悪いのでやめたので」
そう言って駅まで歩いていった。
帰りは高速バス。15時50分発なので、まだ1時間もある。
こうなりゃ打ち上げだ。
駅の建物の中に地酒の飲めるいい店を見つけた。
メニューを見るとちょい飲みセットというのがある。
ビールと日本酒、それにつまみが2品付いている。
運ばれてきた日本酒は「榮川」の純米酒だと説明してくれた。
呑みながら、屋久島で出会った青年が日本酒で気に入っていると言っていたのは福島の酒で、確か「廣戸川」だったというのを思い出した。
メニューを見てみるとその名があった。
そこでもう一杯注文。
飲み比べると、ぼくのお気に入りは榮川の方で一般に言う旨口。廣戸川は淡白なさっぱりした味で、なるほど若者に受けるのはこう言った淡麗なやつなんだろうなと、一人納得していた。
最後に
こうして、登山としては不本意だったけれど、それなりに日本百名山を巡る旅は楽しむことができた。
そして、レンタカーでいろいろな車を運転するのにも慣れて楽しかった。
意外にも、車の所有をやめてみて実は車の運転が好きであったことが分かった。
冬の季節。バイクは寒すぎる。
では、このへんで
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