登山の疲れだろうか。
夜、ブログを書きはじめようとすると眠くて仕方がない。
そんなわけで「つづく」といいながら間隔が空いてしまっている。
いずれにしろ今回が最終話、今も眠いが頑張って書いていくのでお付き合いいただけると嬉しい。
はだしのおじさんと少年たち
登山道が狭いうえ、石を落としたら大変なので、登ってくる登山者のために早くから立ち止まって道を譲った。何人もの登山者が続くこともあった。
こうして休み休み下っていると、下の方から少年の歌声が聞こえる。歌といっても初めは何の歌かわからない。登るリズムに合わせて息を吐きだすようにして歌っている。メロデューはあってないようなもの。独り言のようにも聞こえてくる。
とうとうその子の正体がわかり、歌はドレミの歌であることが分かった。とても元気な歌声で足取りも元気である。
「がんばって」と声をかける。後ろからも仲間が登ってくるようだ。
2番目の少年が「はだしのおじさんが向こうにいる」と教えてくれる。
「はだし? この山で?」
3番目の子が登ってくると「上もこんなかんじですか?」と聞いてきた。
「ずっとこんな感じ。がんばって」と答える。
どうやら少年3人組で来ているらしい。3人ともオレンジ色のお揃いのTシャツを着ていた。いや、はだしのおじさんの連れなのか。
その少年たちを見送るとすぐにガレ場は終わった。そしてここからは起伏のなだらかな道が伸びている。
少し歩いて少年たちのことを忘れた頃、オレンジ色のTシャツを着ている人が向こうからやってきた。40代だろうか、日に焼けている。すれ違う時に足元を見たらなんと裸足だ。さっきの少年の言葉を思い出した。
「はだしですか。すごいですね」
「ありがとうございます」
そう挨拶を交わした。
10年ほど前、大学の通信課程のスクーリングで出会った講師の方がいる。その方も裸足で山を登っている。当時はスクーリングにビブラムの五本指シューズを履いてきていて、その後小学校の校庭で足袋で遊ぶ指導などをしていた。
ワラーチを教えてくれたのもその先生だ。裸足に近い生活をしていると人間本来の身体能力が育つものらしい。健康にも良いようだ。しかし、いきなり裸足で山を歩くのは無謀だ。少しずつ足の裏の皮を厚くしていく必要がある。
だから、武尊山で出会った「はだしのおじさん」も日頃から裸足に近い生活をしているはずだ。一朝一夕には裸足で山は歩けない。
後日、その先生にメールではだし登山者を見かけたことを伝えたところ、<増えているのは嬉しいけれど、ちゃんとリスク管理ができているかが心配>との返信があった。
剣ヶ峰山は、ちいさなピークをいくつか超えた向こうに聳え立っていた。前方左のかなたには赤城山が見えている。
いったん道が木々の中に入っていくと剣ヶ峰山への分岐になった。小さな標識があり、100メートルほどで剣ヶ峰山だ。
急斜面を登り、最後の岩場を乗り越えると山頂にたどり着く。この岩場の上では下山する人が待っていてくれた。
二人の先行者が山頂の標識前で写真を撮っている。その足元の狭い場所には二人が地面に腰を下ろして食事をしていた。
写真が撮り終わるのを待っていたら、後からひとりの登山者がやってきたのでお互いに写真を撮りあった。
剣ヶ峰山山頂からは武尊山がよく見え、その右手には中ノ岳、家の串山、剣ヶ峰、前武尊。そしてその稜線がよく見えた。
山頂には10分ほど滞在して下山を始めた。
木の根に絡め取られそうになりながら
剣ヶ峰山からのルートは等高線が詰まっている。つまり急斜面である。中間あたりに武尊沢渡渉点がありそこからは緩やかになるはずである。
そのようにわかっていても実際歩くとなると複雑な要素が絡まってくる。
実際の道は、土が水分を多く含んでいて滑りやすく、道全体に木の根が張り出していた。加えて段差が大きく、とくに小柄な女性は難渋していた。
こちらが早いというわけではないのだが、女性連れのパーティはどうしても歩くのが遅くなりがちで、そんないくつかのパーティを追い越した。
そうした中に30歳前後の男性二人連れがいて、座って電子タバコをふかしていた。「こんにちは」と声をかけると
「急ですね」とひとりが言った。
「登りですか」と訊いたら下りだという。そして
「膝が笑っちゃって」とべつのひとりが言った。
そう言いながらも登山を楽しんでいる様子だった。
「お先に」といって追い越させてもらった。
腹の調子は(ちょっと下品で恐縮)
腹の方はガスが溜まっているようで、ときどき差し込むような痛みがあった。やはり下痢なのだろうか。しかし何か違う感じもする。武尊神社駐車場まで下ればトイレがある。そこまでなんとか頑張ろう。時々痛みが襲ってくるので、そんな時は立ち止まって痛みが治るのを待った。
そうしてまた下り始めていると、ある拍子にガスが出た。そのときいっしょに何か液体が出たような感じがした。「まずい。もらしたか」と思って手を当てて匂いを嗅いでみた。だが臭くない。気のせいか。
そんなことが二、三度起こった。
先ほどから沢の音がしていた。
渡渉点は近いのだろうか。スマホのGPSで現在地を見てみると、あと100メートルくらいのところまで来ていた。
武尊山は西側に地表が現れた深い谷があり、そこから雨水が集まって流れ出しているのが武尊沢である。
この武尊沢の渡渉点までくれば、剣ヶ峰山分岐までの約半分を下ったことになる。ただ、地形図に水色の線(川の線)が描かれるのは剣ヶ峰山分岐より少し上までで、渡渉点には線はない。
その渡渉点にようやく到達。ここで一休み。沢は普通に川となって流れていた。沢の冷たい水で顔を洗うと気持ちがさっぱりとする。そこで休んでいると後から二組のパーティーが現れた。さっき追い抜いた方々だ。
一組は休みもせずにそのまま先へ行ってしまった。後から来た一組は、ぼくと同じように顔を洗い、そのうえ水筒に沢の水を汲んでいた。
やはりこの渡渉点から先は傾斜が緩やかになり、大きな段差がなくなった。
ここで少し油断したのだろうか、足を滑らせてしまった。ちょうどそこに木の枝が横たわっており、その下に足が入って脛を擦ってしまった。
見るとサポートタイツに血が滲んでいる。絆創膏を貼ることもできないのでそのまま歩く。
下山後に見てみると、皮がベロっと剥けていて、その傷が2箇所にあった。
その後、ふたたび滑ったが、その時はなんとか尻餅をつかずに持ち堪えることができた。
こうして淡々と歩いて行くと道幅の広い砂利道になる。そこから少し下ると今朝分かれて進んで行った剣ヶ峰山分岐に到着。あとは登りと同じ道を辿って武尊神社駐車場に戻る。
ここで例の粗相をしたか問題の解決を図った。つまりトイレに入ってしゃがむ。すると出たのはガスだけ。トイレットペーバーでお尻を拭くも色はついていない。どうやら透明の液体がでたようだ。
一体なんだろうと思い、テントに戻ってから調べると、腸液という粘液らしい。前日の暴飲暴食が祟ったのだろう。いやはや無事に下山できて本当に良かった。
水上温泉
駐車場に戻ってきたのは14時35分。トイレに行き、顔を洗ったりして駐車場を出たのが14時50分。おそらく10分くらいでキャンプ場についたと思う。
予定より早かったので、昨日教えてもらった水上温泉の共同浴場を調べてみる。水上駅の近くに「ふれあい交流館」というのがあり、ここはシャンプーやボディーソープが備え付けてあって600円とリーズナブルだ。ここに決定。
途中、工事渋滞もあり、また、前を行く埼玉のおばちゃん車が制限速度より遅かったり早かったりでなかなか抜けず、40分かかって到着。
このおばちゃん(追い抜く時に見た)、ぼくが後ろを走っていたのを知らないのではないかと思った。バックミラーを見る余裕がないと思われるような格好で前を見つめて走っていた。
そして登りではゆっくり走り、下りで速度を上げた。そうなるとこちらはなかなか追い越せないのである。おばちゃん、ずっとドライブのままでシフトチェンジをしたことがないのじゃないか。
ふれあい交流館の駐車場にバイクを停める。バイク置き場が見当たらず、どこに停めようかとちょっと迷った。
中に入り、入館料を払うと受付のおばちゃんが親切に説明をしてくれる。脱衣かごはのれんの外のロビーのようなところに置いてあり、それを持って中に入り、使い終わったらまた元に戻すというシステムになっているということだった。
洗い場は確か7つで、浴槽もそれほど大きくはない。すでに5、6人が中にいて、その後もぞくぞくと人が入って来た。すごい人気の温泉である。
湯から上がり、休憩室の窓から駐車場に停めてある車を眺めていたら、ナンバーが兵庫、三重、大宮、横浜など遠くから来ている人ばかりだった。どうもここは観光客に人気の温泉だということがわかった。
スマホのバッテリーがやばい
入浴後、近くのコンビニで発泡酒とつまみを買う。腹の方は完全ではないがかなり良くなった、という気がした。つまりはどうしてもビール(もどき)が飲みたかったということである。
キャンプ場へ戻る際にナビをつけていなかったら道を間違えた。
右に曲がるところを直進してしまい、湯檜曽の方へ行ってしまった。おかしいと思ってナビで確認。そこから引き返して左に曲がった。
しかし、湯檜曽の温泉街を眺めることができたのはそれはそれでよかった。
キャンプ場に戻ると若者たちが大騒ぎしながらテントを設営していた。結局、自分たちでは設営できず、近くのキャンパーの手助けによって設営できた。
残念ながら、ぼくは小さなテントの立て方しかわからないので発泡酒を飲みながら傍観していた。
そろそろスマホのバッテリーがなくなって来たのでモバイルバッテリーから充電を開始。ケーブルでスマホと繋いで夕食の支度に取り掛かる。
夕食は鯖の味噌煮の缶詰。ご飯はアルファ米といった簡単メニューである。
夕食後、簡単に片付けて早めに寝る。翌朝はやはり自然の鳥の声が目覚ましとなった。
しかし、今日は帰るだけなので再び目を閉じる。次に目覚めたのは7時だった。
このときにスマホを見て驚いた。なんとバッテリーが残り15%ほどしかない。モバイルバッテリーとの接続が切れたのかとバッテリー残量のスイッチを押してみると、なんとこちらも充電が空になっていた。
まずい。これから帰るのにナビが使えない。ちょっと使いすぎたようだ。登山中に機内モードのするのを忘れたのが大きいのか、温泉をいろいろと検索したのがいけないのか。
ともかく片付けを始め、ゴミ袋を買いに受付へ行くと、コイン式のスマホ充電器が置いてあるのを見つけた。ラッキー! とばかり200円を入れて充電を開始。充電時間は30分と書いてあった。
テントを撤収し、バイクに乗って再び受付棟へスマホを取りに寄る。だが、バッテリー残量はまだ45%ほどにしか達していなかった。
もう一度充電する時間もないので諦めてナビなしで帰ることに腹をくくる。そうしてスマホの電源を切った。
いつもナビに頼りすぎているので、必死で来た道を思い出す。確信を持てずに道路標識に従っていくととりあえず見覚えのある道になり一安心。
こうして17号に入り、深谷手前の〈道の駅おおた〉で昼休憩。そこでスマホを立ち上げ、コースを確認する。帰る道順は次のコースを通ることにする。まず、この先の深谷で右折して小川町に向かい、そこからなんかして越生を通って飯能に行き、そこで16号に出る。
初めは見覚えのある田んぼの中の道をカーブして行き、とりあえず順調に走っていった。
ところが、小川町あたりから標識のどの方向へ行ったら良いのかがわからず、また、先へ進むと標識に現れる地名が変わっていくためどこに向かえばいいのかわからなくなってしまった。
こうして行きで通った道から外れながら、(おかしいと思って引き返したりしながら)どうにか16号に入ることができた。ここまで来れば一安心。ナビなしでも走れる。
こうした冒険をしながら家路についた。
外はまだ明るく、5時半を回ったところだった。9時20分に出発したので8時間ちょっと、実質走行時間は7時間ほどになるだろう。スーパーカブよお疲れ様。
最後に
最後に、今回の登山での収穫があったことについて触れたい。
どうも、からだが疲れている時や体調が悪い時に、余計な力が入らないためかこうした発見をする。
これまでの登山では、主に下りの際に下りやすい体の使い方についての発見について紹介して来たと思うが、今回は登りの際の楽な登り方についての発見をした。
というのは、登りは脚で登るのではなく、体の体重(重心)移動によって登れば楽だということだ。
体重移動とは、平地を歩くときの一軸歩行ではなく、二軸歩行を行い、その時に体重も左右に移動させるのだ。つまりは振り子のように登るのである。
そのときに頭はぶれないようにしておくと視界が揺れない。
このようにすると、大きな筋力は必要ない。スケート、あるいはクロスカントリースキーで進むときのようにするのである。
そうするととても楽に登ることができた。
また、一定のリズムで足を前に出していくととても登りやすい。
ただし、この方法はスピード登山には向かない。
これは階段でも応用できるので、周りに人がいない時はぜひ意識して試してみていただきたい。きっと違いがわかるだろう。
では、長くなってしまいましたが、このへんで。
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