丹沢の「山と高原地図」を広げる。
歩いた登山道にはオレンジ色が塗られている。
表丹沢と呼ばれる小田急線に近い山はだいたい歩いた。
しかし、まだところどころオレンジ色がない線がある。
今回は、葛葉の泉の駐車場にスーパーカブを停め、オレンジのない二ノ塔尾根を登った。
下りは日本武尊の足跡に寄る。
葛葉の泉
今回のコースは歩く距離が短い(6.7キロ)ため、そして路面凍結を避けるために少しゆっくり家を出る(実は早起きが苦手なだけ)。
前回、西丹沢の畦ヶ丸へ行った時は寒さで身が縮んでしまったのでたくさん着込んできた。ところが今日はそれほど寒くない。
だからもちろん路面凍結はなく、安心してスーパーカブを走らせた。
国道246号線を秦野市街を越えて右折するといきなり上り坂である。いったん傾斜が緩くなるがそれでもずっと上っている。
それなのに普通に住宅街だった。一部林の中を抜けるがふたたび民家が現れる。
葛葉川を渡って右折すると再び傾斜がキツくなってきた。もう4速では無理だ。お婆さんが運転する乗用車がこちらを追い越していく。
左折して川から離れていくと表丹沢野外活動センターがある。そしてその先はもう林道になり、スーパーカブはトロトロと坂を登る。
すると目の前に開けた場所が現れた。そこが葛葉の泉で、ポリタンクを積んだ車がひっきりなしにやってくるところだ。時計を見るとあと少しで11時。
隣は広場で木の橋があったりして公園のようなところである。
わりと広い駐車場が道の反対側にあり、きれいなトイレもある。ここにスーパーカブを駐車し、トイレを済ませてから泉でペットボトルに水を汲む。
今日はここで水を汲むつもりだったのでペットボトルは空のまま持ってきている。
二ノ塔尾根
水汲み場にはベンチが二つ置いてあり、そこでダウンパーカとオーバーパンツを脱いだ。
道路の先にはゲートがあり、登山者はその脇を頭をかがめて通り抜ける。
少しだけ舗装路を行くと、左側の石垣の上に二ノ塔1時間30分と書かれた道標が立っていた。そしてその下に小さな階段がついている。
地形図を見ると二ノ塔の頂上付近まで急な登りの尾根道が続く。10分ほど登っただけでもう汗をかき始めた。
中に着ていたセーターと、日本一周中に北海道で買った薄くて軽くて暖かい中間着を脱ぎ、被っていた毛糸の帽子をフリースのネックウォーマーに変え、手袋も二重にしていたものをひと組外した(どれだけ着てるの!)。
ついでに途中のコンビニで買ってきたおにぎりを一つ食べた。お腹が空く前に食べるのがエネルギー切れを起こさないために大切だが、実はもう腹が減っていたのである。
さて、ここから気合を入れて登るぞ、と思ったが、けっこう息が切れる。なんども息を整えながら、そして名水をちょびちょび飲みながら登っていく。
ここの尾根はほとんどが針葉樹の樹林帯で、それもヒノキばかりだ。まあ、まちがいなく植林されたものだ。
急な尾根なので、土砂が流れ出るのだろう。登山道は木の根のお陰で保たれているような感じである。
菩提峠への分岐までの中間くらいのところにめずらしく松が植わっていた。それをみたら急に、「松の木ばかりが松じゃない♪」と子供の頃に聞いた歌のメロディが頭を巡ってしまった。
すぐに松はなくなってまたヒノキに変わる。しかしよく見ると枝に葉っぱがない。上を見上げるとそこには葉がついていた。
そういえば下の方のヒノキは上の方にしか葉がなかった。下枝がきれいに取り払われていたのだ。
つまり上の方のヒノキにまで手が回らなかったということなのだろうか。
そしてあるところからヒノキは突然なくなり、今度は低木地帯になった。そして土砂が崩れるのを防ぐためと思われる植林がされていた。けれど植林された木の根にはもう土が半分以上なくなっているものもあった。
そうして急な登りが終わり、なだらかな道になると急に見晴らしがよくなった。ここまで誰にも会わなかったが、だれかが「やっほー」と叫ぶ声が聞こえた。思わず笑みがこぼれる。
すぐに菩提峠に下る分岐が現れた。ここから頂上までは道がぬかるんでいて滑りやすいので気をつけながら進み、約10分ほどで到着した。
二ノ塔の頂上に着くと、ところどころに先日の雪が残っていた。乾いたテーブル兼ベンチに座り、あらためて昼食にする。風のない穏やかな陽気なのでコーヒーを淹れてゆっくりした。
しばらく誰もいなかったが、急に3組のパーティーと単独行の人が連続して現れた。
約30分ほど休憩し下山にかかる。
日本武尊の足跡伝説
先ほどの分岐まで引き返すのだが、ぬかるんだ道は上りよりも下の方が難しい。というか滑りやすい。
おまけに靴の裏に泥がくっついてきてさらに滑りやすくそれに重たい。
分岐から少し下ると、日本武尊の足跡があるという場所がある。阿夫利山(大山)に向かう途中、水がなくて一同苦しんでいたところ、ヤマトタケルが石を踏むとそこから水が湧き出したという伝説がある。
村人たちもその水に感謝したそうである。
それでそこに鳥居が建てられ、その先の石にしめ縄が張られて祀られている。
裏手に回ってみると、遥か下に続く崖となっていて、視線を上げると向こうに大山がよく見えた。
戻ろうと思ってふと見ると、石が突き刺さったような岩がある。近づいてみるとちょうど足跡のような窪みがあった。
秦野市の説明にはそのようなことは書かれていないが、この窪みが日本武尊の足跡のように思える。
菩提峠までの下りは、さっき登った尾根よりもなだらかだが、日の当たる場所は雪解けか霜解けにより道がぬかるんでいて滑りやすくて苦労した。
慎重に足を置いたのにも関わらず、ずるっとゆっくり滑ってしまい、バランスを崩した。もう片方の足で支えようとしたが支えきれず、体は後ろ向きに倒れていく。
仰向けに四つん這いの状態となってどうにか尻もちは避けられた。
道が急になり始めるともうすぐ菩提峠だ。張られたロープのお世話になりながらあとは滑らずに降りることができた。
落石だらけの林道
ここはヤビツ峠から岳の台という低山を越えて降りてくるところで、子供が小さい頃家族で歩いたことがある。
そしてここから林道をずっと下っていったのだ。
思い出すのは、子供たちがぶつぶつ不平を言いながら歩いていたことだ。たしかに舗装された林道を歩くのはつまらない。
あのとき、今回のスタート地点の葛葉の泉に水を汲みにきている人が何人かいたことを覚えている。下まで下ってきたとき、そこからバス停まで40分と標識に書かれているのを見て、よく歩いたなあと感慨に浸ってしまった。
林道を歩いていると、目の前に崖のような山が立ち塞がり、下を見れば小さな石がゴロゴロ転がっている。落石だ。なるべく崖から遠い側を歩いた。
菩提峠の近くにはパラグライダーの発着台がある。少し下ると下からそれがよく見えた。上空にはパラグライダーが小さく見えた。
沢の音が聞こえてきた。崖の上から水が落ちている。近づくと堰堤になっていた。そしてその沢は道路の下を通ってさらに下に流れていく。
そうやって下を見ていたら、道路に溜まった泥の上に蹄の跡を見つけた。どうやら鹿の足跡のようだ。まあ、熊でなくてよかった。
最後に
林道を下っているとき、「雪に変わりはないじゃなし、解けて流れりゃみな同じ♪」(お座敷小唄というらしい)というメロディが浮かんできた。
実は祖母(血は繋がっていないが)は下町の芸者だった。昔は芸者が流行歌を歌っていたものだ。そうしたレコード盤が我が家には残っている。
そしてなんと祖母が歌っているレコード盤もあるのである。
お座敷小唄は五月みどりが歌っていたが、松の木小唄のほうも同じだと思っていた。帰ってから調べてみて、別の何人かが歌っていたことがわかる。ぼくが聞いたのは果たして誰だったのだろう。
それにしてもいずれの歌詞もほのぼのとした明るい時代だったことをうかがわせる。
葛葉の泉に戻ってくると、わずかに残っていた500mlのペットボトルの水を飲んで、新たに水を汲んだ。秦野の名水というだけあってまろやかでおいしい。もう1本持っている1Lもそのまま持って帰る。
今回は歩行時間3時間40分の山旅であった。前回の畦ヶ丸に比べると土が柔らかでなんだか癒されているように感じていた。
では、このへんで
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