岩木山登山。
百沢コースの樹林帯から大沢の沢登りと登ってきていよいよ山頂は目前だ。
昨夜は台風14号が九州に上陸し、「大型で猛烈な勢力」とテレビでは関連ニュースばかりだった。
弘前では快晴とはいかなかったが曇り空の中登山を開始。
午後になって山頂は雲に隠れて見えない。
しかし、その後素晴らしい景色が迎えてくれた。
雲の中を岩登り
鳳鳴ヒュッテからは岩登りのような岩稜帯になる。
そしておそらく登山者が多くて危険なためだろう、右登りと至る所に書かれていて、登りと下りが重ならないように指示されている。
登っていくとますますガスは濃くなりさらに風が出てきた。ウインドブレーカーを着る。
岩木山は津軽岩木スカイラインを使って八合目まで車で登ることができる。そしてそこまでバスも通っている。今回のゴールはこの八合目である。そこからバスで嶽温泉まで下り、バスを乗り換えて弘前駅に向かう。
また、八合目からはリフトに乗って九合目までいくことができる。八甲田で出会った青年はこの方法で岩木山に登ったそうだ。
つまり、わりと軽装でも岩木山に登ることができるわけである。そのコースと今回僕が登ってきた百沢コースと合流するのが鳳鳴ヒュッテで、ここまで他の登山者とはひとりも出会わなかったが、平日にも関わらず、ここからは人が多くなった。
どこがルートかわからない岩だらけの山を登った先に岩木山山頂があった。そこにコンクリートと石でできたモニュメントといえるような立派な鐘が作られていた。そしてその左手の少し下がったところに山小屋、右手には岩木山神社奥の院があった。
奥の院の脇には建物の土台だけが残っていて、ちょうど風が当たらないので数人がそこで休んでいた。
さっき記念写真を撮った山頂のモニュメントは、横にも山頂の標識が書かれていたのでもう一度写真を撮る。そうしていると十数名のパーティがゾロゾロと登ってきた。全員が登ったところで下山を始める。
今回、ストックを持ってきていたが、全く出番がなかった。狭い樹林帯では草木に引っかかるし、急斜面では手を使った方が安全だ。こうして急な岩場を下っていく。するとだんだんと風が弱まり、ガスも晴れてきた。上を見上げると相変わらず山頂はガスに包まれている。
鳳鳴ヒュッテからリフトに続く道を少し外れた上の方に碑が立っていたので行ってみる。するとやはり遭難者を慰霊したものだった。こちらも高校生。やはり冬は危険な山に変化する。ここでも八甲田山の雪中行軍のことが頭をよぎった。合掌して登山道に戻る。
ここから九合目のリフト乗り場まではなだらかな道がつづく。
異様な暑さ
今回の青森旅行では、寒さ対策としてモンベルのライトシェルパンツというものを購入した。クリマプラスメッシュという裏地がついたもので、重さが222gしかない。また、普段は自転車用のニッカを愛用しているが、街中を歩くこともあり、通常の長ズボンも購入した。
関東ではこの頃急に冷え込んできていたので、青森はさぞ寒かろうと思ったのである。
ところが青森は異様な暑さでライトシェルパンツの出番はなく、長ズボン(O.D.パンツ)は太ももの汗がまとわりついて歩きづらかった。
この前書いたようにおいらせ町では31度になったということである。それでも山の上は涼しい方ではあったが。
岩木山山頂は強風でウインドブレーカーを着ていたが、下るにつれてだんだん暑くなり、途中で上着を脱いだ。
さらに下っていくとますます暑く感じる。それもあって前をいくカップルと少し距離をとりながらゆっくりとガレ場を下っていく。
道が左にカーブしたところに「登山道入り口(八合目駐車場)」という案内板があった。左側の石の上には赤いペンキで矢印とリフトの文字が書かれている。
左手を見ると、黒い岩山の手前にリフト乗場5分との文字を読むことができた。ここから道が分かれている。前をいくカップルはリフトの方へ歩いて行った。
八合目に下る
八合目に下る道は明るい樹林帯の中をいく。ダケカンバの林である。やはり土があると歩きやすい。以前下った谷川岳の道を思い出した。
八合目を出発するバスは15時50分発で、当初の計画では10分前に到着する予定だった。だからちょっと急いでいた。それもあってか焼止りヒュッテから鳳鳴ヒュッテまで登った時点で約50分短縮できた。昼休憩を40分とる予定としていたところを10分程度にしたこともある。
そのおかげで八合目には14時10分に到着した。ひょっとして1本前のバスに乗れるのではないかと急いでバス停の時刻表を見たら、1本前は13時50分。残念、ちょっと遅かった。
それで八合目ターミナルビルで体を拭いたりコーヒーを飲んだりして休憩する。
ここ八合目までは雲は降りてきておらず、遠くまで見渡せる。まずは下に海が見える。日本海だ。ああ、日本一周ではあの辺を通ったのだな、自転車を漕ぐのがきつかったな、などと3年前を振り返った。
友人からは、「天気が良ければ北海道まで見ることができるよ」と言われていた。あいにく山頂はガスに包まれて何も見えなかったが、ひょっとしてここからなら見えるのではないかと思い、地図と照らし合わせて北の方を眺めた。
すると日本海の海岸線の遠い先に陸地が見える。「見えた。北海道だ」。こんな遠くから北海道が見えるなんてなんてラッキーなんだと思った。
いっとき、こうして興奮していたがそれも時間が経つと共に静まってくる。外に出て、バスの発車まで持ってきた文庫本を読んで過ごす。バスが来たのに気が付かないといけないためだ。ほかにバスを待っている人はいない。
ところが定刻になってもバスがやってこない。遅れているのだな、そう思いふたたび文庫本に目を落とす。10分ほど経ってもまだバスが来ない。おかしい。何かあったのか。
そう思ってバス会社に電話する。すると本日は台風が接近しているため運休だという。「えっ、張り紙も何もないですよ」というと、バスターミナルに貼ってあるという。途中の本町から乗ったというと、そこには貼っていないという。
さて、困った。もう16時を回っている。これから嶽温泉まで下ると確か2時間くらいかかるはずだ。日が暮れる。
今日は曇りではあったがまったく荒れた天気などではない。それに昨夜九州に上陸したばかりでどうして運休になるのだろう。バス会社の担当者に苦情を言うが、どうにもならない。
そのとき、バスの時刻表を見にきた人がいた。それを見ると駐車場の方へ向かって歩いていく。
考える間も無く急いで電話を切り、その人を追いかけた。
「すいません。バスを待っていたのですが台風のため運休なんだそうです。これから下に降りられますか? スカイラインの下まで乗せていっていただけませんか?」
必死だった。幸い快く下まで送ってくれた。
その方は30代くらいの男性で、東京から来ている方だった。今日から3泊4日の予定で青森をレンタカーで回る予定とのことで、これから白神に行くのだと言う。
先日、乗鞍へ行った時にでヒルクライムレースのことを知ったそうで、自転車で乗鞍まで登れることに驚いたようだった。自分もやってみたくなり、自転車屋に見に行ってきたそうだ。ただ自転車のことはあまり知らないようで、どんな自転車で走るのかと訊かれた。
どんな自転車でも走れないことはないが、多くの人はできるだけ軽い自転車で登っていることや、軽量化するにはちょっとお金がかかることなどを話した。
バスが目の前を通過する
そうして20分足らずでスカイラインを下り、さらに嶽温泉まで送ってくれた。
しかし、車を降りたところで目の前をバスが通り過ぎた。
見えていただけに悔しかった。この16時半発のバスに乗る予定だったのだ。時刻表を見るとまだ次のバスがあった。よかった。最終ではなかった。しかし、つぎは18時10分発。あと1時間40分もある。
略地図をみると途中に温泉の文字が。よし、そこまで歩いて温泉に入って次のバスに乗ろう、そう考えた。
この時、悔しさのあまり冷静な判断ができていなかった。しばらく歩いてから後悔するのだが後の祭り。地図を出してみて事前に調べたことを思い出す。そうだ、この路線は市内に入るまで他からの合流はないのだった。
途中の温泉とは7キロも先の岩木山神社前にある百沢温泉だった。しかしもうすでに30分ほど歩いている。これから引き返してもゆっくり温泉に入っている時間はない。ならば歩けるところまで歩いて途中のバス停から乗るしかない。
道路脇は自然遊歩道となっていた。最初はその遊歩道を歩いていたが起伏があったり道がぬかるんでいたりしたので車道に出てアスファルトの上を歩いた。
意識していないとすぐに『どうして待っていなかったのだろう。そうすれば温泉に入ってゆっくりできたのに』という後悔の念が湧き上がってくる。
車道を走る車はスピードを上げて通り過ぎていく。中には僕を大きく避けていく車もあった。
それにしても何もない。ときどき店があったが開いているところはほとんどなかった。すると向こうからバスが来るのが見えた。あのバスが嶽温泉まで行き、引き返してくるのだ。バス停のポールも片側だけにしかないところもあった。
そうしてひたすら歩いていくと岩木山総合公園の看板が見えた。地図を見れば岩木山神社との中間地点だ。さっき八合目で汗を拭き、Tシャツも着替えていたのに汗が流れてくる。
だんだん日が暮れていく。朝コンビニで両替のために買ったチョコレートを食べながら歩く。思いがけずこのチョコがこの無駄な歩行をしている気持ちを慰めてくれた。
結局、朝降りた岩木山神社前まで歩いた。時刻は17時50分。もう歩きたくない。ここは温泉だが入っている時間はない。ここからは18時20分発なのであと30分。幸いここにはトイレがありベンチもあった。
再び手ぬぐいを濡らして汗を拭く。バス停にはスカイラインバス運休の張り紙などない。
ようやくバスに乗り、ひと心地がついた。乗客は母と就学前くらいの男の子の二人。その後乗客はなし。僕はバスターミナルまで乗る。母子はその2つか3つ手前で降りた。
最後に
今回の旅は登山が従で旅行が主。そんな気持ちだったのでちょっと贅沢をした。友人のところでもだいぶ飲み食いをしてさらに弘前でも。少々食べ過ぎた。
19時にバスターミナル前で下車。ネットで調べた近くの居酒屋に夕食に行く。
22時30分発の夜行バスに乗るのでそれまで時間を潰さなければならない。カウンター席がひと席空いていてそこに座る。この後に入ってきたお客さんは断っていたのでラッキーだった。
お店は21時半で閉店。あとはバスターミナルで夜行バスの出発を待っていた。
ここで、今日のスカイラインのバス運休について要望を伝える。
「これは要望なんですが、今日、岩木山に登って八合目からスカイラインのバスを待っていたのに来ないので電話したら台風がくるので運休とのことでした。せめて八合目のバス乗り場には運休の張り紙をしておいてもらえませんか」
だって、バスターミナルに張り紙したって途中から乗ったらわかりませんからね。
では、このへんで
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