暗いうちに起きて出発準備。
南阿蘇は6時でもまだ暗く、6時を回ると少しずつ周りが見えてくる。
そんな時間に高千穂の北谷に向かって車で走り出す。
白んできた空に浮かぶ阿蘇は美しく神々しい。
荒々しい火山ほど遠くから眺めると美しく見えるものだ。
通りに出ると、そこは以前自転車で通ったはずの道。
高森湧水トンネル公園の看板をみて、確かに立ち寄ったことを思い出す。
そして、高千穂の入り口に立っている「鬼の人形」まで自転車で辿った道をゆく。
「鬼の人形」と思っていたのは実は間違いで、本当は古事記に登場する天鈿女命(あめのうずめのみこと)と手力男神(たぢからおのかみ)の二柱だったということが今回調べて分かったのは収穫だった。
3日目、祖母山に登る
7時半前に北谷登山口に到着。すでに駐車場は満杯だ。一台の車の前の角がなんとか停められそうで、運転者も朝ごはんを食べていたのでお願いして少し下がっていただいた。
おまけに誘導までしてもらう。ただ、見たところまだ他にスペースはあったように感じた。帰りに見たらやはりそのスペースに2、3台停まっていた。
車を停めると昨日コンピにで買って来たおにぎりで朝食。3つ買って来たうち2つだけ食べる。昼頃には下りてくる予定なので昼食は下りて来てから食べることにしていた。残したおにぎりは非常(おやつ)用である。
この北谷登山口に通じる道は、地形図を見ると一本の線となっている。一本の線とは軽車道のことで、道幅が3m未満の道路である。
それも山道なのでくねくねとうねっている。だから当然暗いうちは通りたくなかった。レンタカーの事故の免責がないので、ブツけたら15万円は実費となる(と脅された(と感じた))。
思った通りすれ違うにはどちらかがバックしないと難しい道だった。しかし、幸いなことに先行車に追いついてその後を走ることができ、対向車もこなかったのでラッキーだった。
まあ、午前7時頃に山から降りてくる車もないだろうけど。
登山開始
北谷登山口でトイレを借りる。これが意外や意外。全く匂わないのである。風の通りは壁と屋根の間の隙間。それだけなのに。
実はここ、水洗なのである。街中のように勢いよく水が流れたりしないが、ボタンでちょろりと水が流れ、もう一つ水の銃でフォローするようになっていた。水の銃のことを洗浄ガンというらしい。こんな山奥なのにたいしたものだ。
さて、7時50分、ようやく北谷登山口を出発。
左手の登り口に入るといきなり森の中に入る。これまでと打って変わって深い森の中だ。九重山も阿蘇山もほぼ草地か岩場の火山の山だった。だからこんな深い森の中に入っていくと癒される。
ウィキペディアによれば、祖母山は火山活動にって形成された火山地帯が隆起したものだという。よって低山部では渓谷、中高山部では花崗岩の断崖が多い地帯だとのことである。
今回登っているルートは、一般のルートである。車で走って来た道をまっすぐ進むルートもあり、そちらは中級者向けのコースになっているようだ。
少し登るとしばらく平坦な道が続く。襞のようになっている山腹をくねくねと進んでいくのである。
こうして少しずつ高度を上げていくと尾根道に出る。ここからは地図を見てもほぼ真っ直ぐな、なだらかな道を登っていく。
まるで里山
一旦尾根道に出て少し登ると展望所があるというので少し横道に逸れて登る。行ってみると霞がかかって遠くまで見通せなかった。
そこから元来た道に戻らずに通常ルートに合流する短縮ルートをいく。
このあとはほぼ平ら。ときどき下りもあるが緩やかに登っていく。このあたりは千間平というそうだ。
その先が五合目で中間地点。けれど山を登っているという感じがしない。この地点で標高1400メートルを越えているのだが、まるで里山をトレッキングしている気分だ。
登山道には広葉樹の葉が落ちて森の中が明るい。このたくさんの落ち葉の下には小さな虫たちが生きている。さらにはもっと小さな微生物たちが生きている。こうして自然は循環し、さまざまな生き物が共生している。それが森である。
やがて広葉樹から針葉樹に変わった。通常、針葉樹の森は暗いものだがなぜか明るい。
なぜだろうと、空を見上げると針葉樹の葉が上の方だけについていて、下のほうは枝が払われていた。さらに根本にはその枝が落ちていた。
つづいて三県界の標識が現れる。そこは宮崎県、熊本県、そして大分県の3つの県が接する場所だ。そこから少し登り、少し下るとしばらくは本当に平らな道になる。
ここで少し腹が減ったので、歩きながらおにぎりを食べた。これまで二人くらいしか人と出会わなかったので安心していたら、すぐに前から人がやって来てしまった。おにぎりを頬張っているのが少し恥ずかしい。
南阿蘇でペットボトルに汲んできた美味しい水を飲んだ。
ふたたびわずかに登ると突然キャンプ地のような広場に出た。国観峠(くにみとうげ)である。正面に祖母山のなだらかな山頂が見えた。
広場の向こう側の登山道に入る脇には赤いマントの上に赤いちゃんちゃんこを着て赤い帽子を被ったお地蔵様がこちらを見ていた。
この先の八合目で登りに入る。さらに九合目を過ぎたあたりから岩場の道になり、傾斜も急になっていく。
午前10時、祖母山登頂。山頂では多くの登山者が重い思いに何かを作って食べていた。ぼくはここでコーヒーを淹れて休憩。
山頂からはほぼ360度の眺望だった。ただ、やはり霞んでいてあまりはっきりとは見えなかった。それに山の名前も全くわからない。
山頂では今朝車を移動してくれた人と出会った。その方は真っ直ぐの中級コースを登って来たということだった。ぼくが登って来たコースは景色が見えたかどうかを訊かれたので、ほぼ樹林帯の中で、展望所からも霞んでいて見えなかったと伝えた。その方のコースも同じだったようだ。
10時半、同じコースで下山を開始する。
始めは岩場に注意し、あとは土の斜面を滑らないように注意しながら下る。滑らないようにするためにはなるべく平らな場所に足をつくこと、という筑波山の下りに体で学んだことが生かされているように思う。
理屈ではなく、体で学んだことはなかなか忘れない。
落ち葉の柔らかな道を下り、ふたたび山襞に沿った道を下っていく。本来急斜面のはずが大きく道が回り込んでいるために傾斜が少ない。すごく楽だ。
どこもこんなだったらいいのになあ。
下山した駐車場で
そして12時ちょうどに登山口まで降りて来た。
ここでお湯を沸かしてモンベルのリゾッタを食べようと思っていたが、面倒になって行動食のSOYJOYバナナ味と本物のバナナで昼食とした。
雑巾で汚れた車のフロントとリアのガラスを拭いて、準備万端つぎの目的地のえびの市に向かおうとした、が、その前にトイレに行っておこう。
そしてトイレから出て来たら、ふたたび車を移動してくれた方と出会った。
「大分からですか」というので
「車はレンタカーで、神奈川からです」と答える。その方は北九州ナンバーだった。
「神奈川だと北アルプスなどに登りやすいですね。こちらからはなかなか行きづらくて。この間は九重にいってきました」と言うので、
「九重は昨日登って来ました」と言うと、
「紅葉はどうでしたか」。少し考えてから
「うーん、ちょっともうくすんだ感じでしたね」
「私が行ったのは10月20日ごろだったのでちょうど見頃でした」とのことだった。
12時半、その方と別れて例の狭いくねくね道を走り出す。今朝と同じ道を引き返して熊本に出る。九州自動車道を使ってえびの市まで走った。
ビジネスホテルに16時に到着。夕食前にひと眠りしたかったが、洗濯を終えるともうすぐ18時、ゆっくりする間もなく急いで食堂に向かう。
この日は18時半に団体の予約が入っているという。ここはバイキング形式なので急がないと。食堂で頂いた焼酎は、水割りとかではなくコップ一杯300円というコンビニ並みのお値段。
今日一日無事に登山できたことに感謝して乾杯。ちなみに水で割ったら3杯飲めた。
つづく。
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