たびたび登場する大山がまたここで登場するので、どうぞご容赦願いたい。
今回も職場の仲間と登ったときの話。
いつも登っている大山に後輩を連れていったときの話である。
やはり昔、38年も前のことになるので、職場の様子なども現在とは大きくことなっていた。
人と人との関係性が濃い時代で、そのことが良い面もあったが逆に働くこともあった。
そんな時代にうまく生きることができなかった後輩と一緒に登った、ちょっとせつない登山の思い出話である。
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シャイな青年
新人が配属されてきた。
このころ(83年)はまだ、新卒を一斉に採用することはしておらず、様々なルートから採用していた。
だから、そのシャイな青年がどういう経緯で入社して来たのかはわからない。
僕らが入った時代は高卒と大卒とどちらも採用していたが(ちなみに僕は高卒で新聞広告をみて応募した)、このときはもう大卒のみの採用に変わっていたはずなので、おそらくその新人は大卒だったのだと思う。そのあたり、つまり入社の経緯はよくわからない。
その青年はほとんど目を合わせることもなく、口数も極端に少ない。どうしてそんな子が採用されたのだろうと思うような子だった。
おそらく縁故関係で親がよっぽど影響力のある人だったのではないかと想像する。
その青年は今思えばイケメンでスタイルも良かった。ところが内気で口数が極端に少なく、どうにも覇気がない。そのためか、部署が変わってからおばさま方にからかわれたりする場面をよく目にした。
当時はよくしゃべるおばちゃんが何人かいて、そのおばちゃんたちが新人を可愛がって(面白がって)からかうことはよくあることだった。良い悪いは別として、それが当時は当たり前のコミュニケーション手段であった。
おばさまに言われたことを受け流したり言い返すことができなくて、おばさまのからかいぶりはどんどんエスカレートしていった。
そんなシャイな彼が、数年経つと態度が随分と変わってきた。だんだんと暴言を吐くようになってきたのだ。そうやって黙らせるしかなかったのだろう。そうしているうちにそれが態度にまであらわれるようになった。
そうやって入社した時の面影はなくなっていった。
そしてついにはストーカー行為を働いたりして問題になり、退職することになる。
もし、いまのようにメンタルヘルスへの取り組みが企業に取り入れられて、研修やカウンセラーへの相談制度があったならば、ひょっとしたらこんな不幸なことは起きなかったかもしれない。
登山を企画
さて、そんなシャイな青年が当時ぼくが所属していた経理課に配属された。
おとなし過ぎてあまり職場になじんでいないのが気になっていた。
そこで、入社して1ヶ月経った5月の連休に日帰りの大山登山を計画し、その彼を誘った。
この計画に年齢の近い女の子たち三人が集まり、総勢5人で行くことになった。
大山を選んだのは、山道がよく整備されていることに加え、古くから信仰の山として歴史を感じさせる石段や石仏などがあるからであった。
当日、小田急線の伊勢原駅に9時に集合した。連休のためえらく混んでいて、バスに乗るのまでに30分待つことになる。
大山ケーブル下のバスの終点には10時に到着。ケーブルカーには乗らずに女坂を登る。
女坂は名前の通り緩やかな道が多い。そして途中に大山寺があり、境内を表から裏に抜けていく。するとこの辺りから急な登りになっていき、ときどき木々の間から色鮮やかなケーブルカーを覗くことができる。
そのほかにも大山の七不思議が点在していて、それを探しながらゲームをしているようにして登っていける。
みな若いのでケーブルカーに乗りたいなどと言い出すものはいなかった。もちろんシャイな新人も不平を漏らすことなく素直について歩いてきてくれていた。
阿夫利神社下社には11時に到着する。ここから頂上までの一般的なコースタイムは90分である。われわれもほぼ同じ時間で登り、12時25分に山頂に着いた。ここで1時間ちょっと昼休憩し、記念写真を撮る。
参加した女性らはシャイな新人をからかうこともなく、気を使って接してくれた。彼も楽しんでいるように思えた。
下山中のアクシデント
下山コースは日向薬師に向かって下り、途中から左に分かれる不動尻に抜けるコースを進む。こちらは距離は長いが、平坦な部分が多いので歩きやすく、さらに歩く人が少ないのでお気に入りのコースなのである。
ただ、問題なのは唐沢峠を過ぎて、不動尻という沢に下る部分が急坂であるという点だ。
そしてその急坂でアクシデントが起きた。
急坂をジグザグにカーブしながら下っていると、ひとりの女の子が足を捻挫してしまったのである。だいぶ歩いていたので疲れためだと思う。
このとき、こういった怪我が起こることをまったく想定していなかった。
幸いメンバーの中で一番軽そうな子だったので、おんぶすることにした。彼女の荷物は他の女の子が持ち、僕の荷物を新人くんに持ってもらう。
もう、半分くらいは降りていたので後少しで不動尻だ。
それほどたたずになんとか不動尻に到着することができた。ここからは舗装された林道なので、ひとまず安心する。
あまり段差がなく、不動尻の滝下になんなく降りられたので、沢の水で足を冷やしてもらう。
30分くらい冷やしただろうか。
そのお陰かどうかは分からないが、なんとかバス乗り場のある広沢寺温泉入口まで自分で歩いてくれた。
そこからバスで本厚木に出る。
幸い怪我した女の子も元気だったので、駅ビルでお好み焼きを食べ、打ち上げ(僕だけビールで他はソフトドリンク)をやった。
シャイな新人くんも皆と打ち解けてくれて連れてきた甲斐があったと思った。
逆に言えばその頃はまだこうして山登りについてきてくれる気持ちがあったし、一緒に行動する協調性もあったのである。
それが、どういうわけか問題行動をとるようになってしまったことは残念でならない。
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まとめ
捻挫した女の子は頑張り屋さんで痛みも我慢していたのだろう。
連休明けに、その後どうだったかを聞いたら、家に帰ったら足が結構腫れていたので湿布をしていたということだった。
だが、「もう大丈夫です」と言ってくりっとした目をこちらに向けた。
そうしたひょうひょうとした態度が彼女の持ち味である。心配をかけないように気遣ってくれたのかもしれないが、そうしたそぶりを見せないところがいい。
そういえば、シャイな新人が大卒だとしたら、一緒に行った女の子たちはみんな年下だったことになる。
素行に問題があってやめた彼とは違い、彼女らはそれぞれ自分のやりたいことのために辞めていった。
きっとそれぞれの場所で幸せに暮らしていることだろう。
彼も昔は素直だったのだから、昔のように周りの人とうまくやってくれていることを願う。
最後までお読みいただきありがとうございました。
では、このへんで
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