前回は、竜宮小屋に到着して散策組と山の鼻小屋直行組とに分かれたところまでだった。
朝のうち降っていた雨は上がり、晴れて来て気分も盛り上がってきている。
ところがここでちょっとまずいことをしてしまった。
今回は、山の鼻小屋に到着してから至仏山登頂、そして帰るまでの話です。
前回の話はこちら。
偶然、後輩に出会う
山には雲がかかっていたが、雨はすっかり上がった湿原の木道を直行組の仲間と歩いて行った。
水芭蕉のシーズンはもう終わったようだったが、まだ少しは残っている。それでつい写真を撮るため木道を降りてしまった。すると、リーダーから
「湿原に入っちゃダメだよ、すぐにあがって。湿原を守るために木道があるのだからね」
と諭すように注意された。
そのときは知識がなく、そんな基本的なことも知らなかったのだ(本当は栞に書いてあったけどちゃんと読んでいなかった)。
激しい叱責ではなく優しく注意してくれたことがありがたかった。けれど、深く反省した。
そうしてまた歩いて行くと、向こうから見慣れた顔がやって来るではないか。
この年に入社した新人で僕の隣に座っている女の子だった。今回のツアーには参加していないはずである。
「あれー、なんでここにいるの?」そう言って思わず頭をポンと叩いた。すると
「家族できているんです」という返事。
みればお父さんとお母さんがそばにいる。
それに気がつかずにポンと頭を叩いてしまい、バツが悪かったので「あっ、どうも」と軽く会釈をして逃げるようにその場を立ち去った。なんだ、来るんだったら教えておいてくれよ。
山の鼻小屋には午後4時に到着した。
ここまでずっと、進行方向には至仏山がきれいな稜線を見せてくれていた。後ろを振り返ると、尾瀬ヶ原に歩いてきた木道が続き、その向こうにはデコボコした山頂から裾野を大きく広げている燧ケ岳が見える。
小屋に入って少しくつろぐと夕食の時間となり、それがそのまま交流タイムで宴会となった。だが、食事をしてビールをジョッキ1杯飲むととたんに眠くなってしまう。そして睡魔に耐えきれず、病院職員と交流できないままに部屋の片隅で眠ってしまった。
至仏山に登る
翌朝も雨が降っていた。
ここでも鳩待峠直行組と至仏山登山組とに分かれることになった。
昨夜早く寝て元気になった僕は登山組にまわる。どうやら、おおよそ半々に分かれたようだ。
6時45分、標高2,228メートルの至仏山山頂を目指してぞろぞろと歩き始める。
次第に雨が上がり、絶好の登山日和となった。
至仏山からの眺めは素晴らしく、途中、何度も振り返って景色を楽しんだ。
脚力の差が出て、隊列はながく伸びていたが、途中から同じ職場の若手組がかたまり、9時20分、いっしょに山頂に立った。
若い看護師さんと隣の席になる
好天は続き、全員無事に登頂を果たし、鳩待峠で直行組と合流する。
12時10分、ここから前日のようにマイクロバスに乗って戸倉まで行き、1時半頃そこで大型バスに乗り換えた。
帰りは職場ごとに固まるのではなく、乗った順に座っていった。
すると登山組で見かけた若い女性が二人並んで座っていた。たまたま空いていた通路を挟んだ反対側の通路側に座る。あるいは彼女たちが後から座ったのかもしれない。
ここで、昨日できなかった交流をするいい機会だとおもった。とりあえず挨拶くらいしておかなきゃと、とくに話しかけるでもなく挨拶をすると
「昨日は飲み会で寝てましたね」と話しかけてくれた。
それでホッとして話はじめることができた。
聞けば二人とも看護婦さんで、受け持ちの病棟は別々なのだそうだがとても仲が良い。それぞれ別々の地方から来ているということだったので、地元のことなどをいろいろと聞いた。
途中、トイレ休憩でドライブインだったかサービスエリアだったかによる。バスを降りて再び乗るときにバスの前で記念写真を撮ってもらった。ところがプリントを見たらこれがすごいピンぼけだった。
バスに乗車すると再び同じ席に座る。そしてそのままバスが東京に着くまでの間ずっと話をしていたのである。
というわけで最後まで楽しい尾瀬散策ツアーであった。
おしまい。
まとめ
帰りのバスでは舞い上がってしまい、自分の席の隣は誰だったのか、隣の人は会話に参加していたのかということさえもまったく思い出せない。
まあ、その看護婦さんにその後に会うということもなく、それきりではあったのだが、楽しかったということだけがとても強く印象に残ったバスツアーだった。
また、山頂で撮った記念写真を見ると、みな楽しそうで顔が輝いている。もちろん他人ばかりではなく、僕自身の顔も輝いて見える。
こうした幸せな顔を見ていると、当時の人はみな何かパワーを持っていたように思われる。パワーとは、幸せになりたいとか、社会を良くしたいとかいう希望の力なのではなかったかと思う。
思い返せば、あの頃は仕事に行くことが楽しかった。
果たして当時よりも便利な社会で生活している現在のわたしたちの顔は輝いているだろうか。
あまりにも効率を優先した結果、人々は協力し合うということがおろそかになっているような気がする。人は集まって協力し合い助け合うことにより、より大きな力が生み出せるものだと思うのである。
そんなことを考えた尾瀬散策の振り返りだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
では、このへんで
*後からよーく(年齢差を)考えて見たら、頭をポンと叩いた女の子は新人ではなくて入社2、3年くらいだったようです。
写真で履いているのはこちらの廉価版です。
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