先日、産業カウンセラー資格更新研修をオンラインで受講しました。
そのとき受けた講義に「セルフキャリアドック」というのがありました。
みなさんは知っていますか?
わたしは不勉強で全く知りませんでした。
キャリアコンサルタントの試験に一度落ちたらそれっきりキャリアの方から遠ざかってしまいました。
でも、資格更新研修でセルフキャリアドックの話を聞いたとき、これって今年4月施行の「70歳定年法」と関係があるような気がしました。
厚労省の考えている働き方って何なのか。
今回はそんなことを考えてみます。
セルフキャリアドックとは
セルフキャリアドックとは在職者のキャリア形成支援のことです。(上のイラストとは関係ありません)
厚労省の手引き(「セルフキャリアドック」導入と展開)の言葉を借りていうと、「企業が従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、仕組み」のことです。
2016年4月1日に施行された改正職業能力開発促進法により、企業が従業員に対して
①キャリアコンサルティング面接
②キャリア研修
を行うことが努力義務とされました。
キャリアコンサルタントが国家資格となったのはこれがあったからなのですね。
ただ、努力義務なのでどの程度の企業が採用するかが問題です。
ちなみに2019年の改正では、職業能力開発者をキャリアコンサルタント等から選任するようになりました。
つまり、セルフキャリアドックを導入した企業もほとんどは上司がキャリア面接を行なっていたということです。
キャリアコンサルティングを行った企業での効果は、仕事の満足感が得られたとのことですが、時間の確保の難しさがあり、相談件数の少なさや効果の測定が難しいといった課題もあるようです。
目的
この改正の目的や狙いは「個の力を引き出し、組織の成長を実現する」こと。
その背景には、IT化の推進、国際競争の激化という問題があるということです。
このセルフキャリアドックでは、まず従業員に気づきを与え、自分のキャリアを見つめ、今後のキャリア形成について考えてもらうということだそうです。
企業の抱える問題点と課題
手引きでは、次の4つの問題点や課題を指摘しています。
- 新卒採用者の高い離職率
- 育児・介護休業者の低い職場復帰率
- 中堅社員のモチベーションの低下
- シニア社員の雇用、モチベーションの維持・向上の必要性
以上が、セルフキャリアドックの概要です。
しかし、企業のキャリアコンサルティングはキャリアコンサルタントの技量に左右されるところが大きいので、あまり期待しすぎないことです。
ですから、これを読んでいるあなたには自発的に自分のキャリアを振り返り、今後のキャリア形成の方針を考えていただきたいと思います。
そのとき、現在勤めている会社の将来の見通しも含めて考える必要があるでしょう。
70歳定年法とも関連?
70歳定年法が今年2021年4月から施行されると、以前に述べたように現役世代の賃金を減らして高齢者の賃金に回すことが考えられます。
そして、年功序列型の賃金体系が崩れるということは年功序列の昇進や昇任も見直されます。
働き方も多様化し、昇任を望まない人たちもいます。するとますます役職につく人は高い賃金を得て当然となります。
つまり、欧米型に近い賃金体系や昇任制度になるのではないかと考えます。
そして、厚労省の推進する政策では、高齢者に仕事は保証するけれども必ずしも雇用者と雇用される者(従業員)という関係ではなく、個人事業主との契約という形で行うことも認められるようになります。
そうやって、長期にわたり個人が働いて収入を得る「生涯現役」の社会になれば、年金の支給開始年齢も遅らせることができますし、支給する額も少なくて済むはずです。
また、セルフキャリアドッグを実施して、従業員にキャリアの自覚を持たせることで個人が働く意欲を持つことは、企業にとっても有益で国際競争力も高まると考えられます。
企業の国際競争力が上がることは国のGDPも上がるということです。
しかし、中小企業の多い日本で果たしてこのような結果になるでしょうか。
少子化のなか、働けない(働きたくない)人たちも増えています。
いずれにしてもここしばらくは、大半が IT に弱い高齢者に働いてもらう必要がありますし、AIを含め、ますますITに依存した社会になっていくことは間違いなさそうです。
政策のもとになる考え方
以上のようなことを考えていたら、「そもそも厚労省は何を目指しているのだろう」ということが気になりました。
以前は、旧厚生省と旧労働省の政策が対立したりしていましたが、これらの政策は労働と社会保障とが連携しているようです。
それはそれでいいことなのですが、こうした政策が目指しているものは何なのかが気になり調べてみました。
そして、次のような提言を厚労省のHPに見つけました。
「働き方の未来2035報告書」
ここには、「〜一人ひとりが輝くために〜」というサブタイトルがあります。
概要をお話しする前に、参考資料として載っている将来(2035年)のある人の姿をご紹介します。
②【2016 年:4 歳 2035 年:23 歳、男性】 「小さなころからプログラミングが好きで、趣味でゲームをつくっては公開していました。高校生のころ仲間数人でつくったゲームがヒットし、世界中でプレーされました。それで僕たちの名前が知られることになり、シンガポール、インド、ドイツ、エストニア…いろんな国のプログラマーから「一緒に仕事を しよう」と声がかかりました。いまは5つのプロジェクトを抱えています。住む場所は違っても、いいサービスをつくりたいという気持ちはみんな一緒です。 また世界をあっと言わせるサービスをリリースしたい。父親の時代までは、いい仕事に就くためには都会に行けと言われていたそうです。でも、いまは違う。 この小さな海辺の街にいながら、世界中とつながって仕事ができる。僕は海が好きなので、ずっとこの街にいたい。毎日午前中はサーフィンをして、午後に集中して仕事をしています。仕事のために都会に行き、一日中仕事をし、ひとりで小さなアパートに帰るという生活は、僕には想像ができないです」
そして、もう1例
⑤【2016 年:61 歳 2035:年 80 歳、男性】 「新卒で入社した会社の定年は 65 歳でしたが、人手不足で結局 70 歳まで働 きました。といっても 66 歳からは小さな会社を起業したので、それが副業となり、そこそこの収入を保っていました。退職金もあって老後の資金は何とかなりそうだったのですが、引退して悠々自適という気分にはなれず、71 歳以降も働くことにしました。といってもインターネットで受注したボランティアの仕事です。私の専門だった仕事はすっかり AI を搭載したロボットに取って代わら れたのですが、文化保護団体が昔の仕事のやり方を保存したいということで、私に仕事が来ます。報酬はAIロボットが使う電気代ほどですが、昔からの仕事なので私にとってはやりがいがあります。最近分かったことですが、AI の仕事と人手による仕事ではどうも仕上がりに微妙な差があるようで、再び人間の仕事として見直されているそうで、私の技術がまだまだ役に立つ可能性が出てきたのです。昔の仲間で長生きしている連中に声をかけて、近くNPOを設立する予定です。収入がなくても社会に役立っていることが生きがいです。100歳まで生涯現役で働きたいと願って、近所のプールで週に3 日は泳いでいます」
どうですか。なんとなくどんな社会を目指しているのかがわかってきますね。
一応、この提言について説明しておくと、この「働き方の未来 2035:一人ひとりが輝くために」懇談会のメンバーは大学教授や民間の会社のトップ、民間の経済研究機関の社員、インターナショナルスクール代表などで、2016年8月に公表されています。
報告書の「はじめに」には日本の現状とどんな社会を目指すべきかが書かれています。
現在日本の抱えている問題とは、人口減少(少子化と高齢化、労働人口の減少)、地方の過疎化です。
そんな日本が、今後目指していく社会は、個性と変化のあるライフステージに応じた多様な働き方を選ぶことができて、それが共存できる社会であるべきです。
そのためには、男性も女性も若者も年寄りも、障害や難病を持つ人も、(おそらく人生や事業に)失敗した人など誰にでも出番と役割があって、働きがいや生きがいを感じられなければならない。
多様性の中からこそ新しいアイデアやイノベーションが生まれるのです。
と、以上のようなことが書かれています(イノベーションとは技術革新だけではなく、創造的な変革という意味にわたしは捉えました)。
そのうえで、過去を見るとIT(情報技術)は働き方を大きく変え、インターネットテクノロジーにより世界とつながり、また、AI(人工知能)の技術革新はこれからの社会を大きく変えようとしているということが述べられています。
そして最後に「個々人が 「好きで得意な道」で技術革新をフル活用し、世界で類を見ないユニークな存在であり続けてほしい」とまとめています。
具体的には、
- 時間や空間にしばられない働き方
- より充実感がもてる働き方
- 働く人が働くスタイルを選択する
- 世界と直接つながる地方
- 介護や子育てが制約にならない社会
- 性別、人種、国籍、年齢、LGBT、障がいの壁をなくす
などです。
提言では、技術革新は大きなチャンスをもたらすこと、チャンスを生かすには新しい労働政策の構築が不可欠であること、企業への帰属意識からの変化に対応し、労働組合も技術革新を活用した多様な働き方を支援できる組織に進化することが求められること。
また、 人材が企業間を動く社会と再挑戦可能な仕組みと財政支援、 働く人が適切な働き場所を選択できるための情報開示の仕組み、これからの働き方に合わせた税と社会保障の一体改革の必要性。
そして最後に早急かつ着実な実行を求めています。
見えてきたこれからの働き方
これまで見てきて、キーとなるのは多様性と技術革新です。
ライフスタイルに合わせた働き方という多様性、多様な人種や国籍、性別などの材を受け入れていくという多様性、ITやインターネットテクノロジーの急速な発展とAI技術への対応、ということだと思います。
するとどうなるでしょう。
そう、今回の新型コロナで急速に普及したオンラインによるミーティングや在宅での業務など、職場に行かなくても仕事ができることがわかってしまいました。
郊外に住み、東京まで通勤に1時間とか1時間半かけて通う無駄なことはしなくてよいのです。
経理業務だってAIがやってくれるようになるでしょう。製造業もロボットがやってくれます。
働き方を改革するなんてスローガンを掲げなくとも次第に人が行う仕事は変わっていき、それに合わせて働き方も変わります。
ワークライフバランスをとる人や仕事が楽しくて仕方がない人など、働く人の意識も多様化していきます。
今ある仕事が無くなり、新しい仕事が生まれます。そこにチャンスもあるということです。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
現在、50歳未満の方は20年後の未来に向けて自分のやりたいことや得意分野を見つけて準備を始めた方が良さそうです。
50歳以上の方は、70歳かそれ以上まで働くことを念頭に、後悔しない人生を送るために残りの人生をどのように生きたいのかを見つめ直して、変動する時代に流されないようにしていただきたいと思います。
車がガソリン車から電気自動車へとシフトする中、変化に対応できない企業は淘汰されていきます。
その企業が大きければ、関連する中小の企業はより厳しい現状にさらされることになります。
一流企業にいれば安泰という時代ではなくなってきています。
いま、変わり始めていないと遅れをとり(特にIT化)、市場での優位性はなくなると思います。
あなたもわたしも、こうした情報に敏感になることが大切だと感じました。
では、このへんで
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