一昨年定年退職し、その年から翌年2月まで自転車で日本一周をしました。
私にとって定年は人生の一大イベントで、それを記念すべく、約9ヶ月半をかけたこれまた大きなイベントでした。
その定年退職という制度があまり大きな意味を持たなくなるという記事を見て、時代の流れの変わり目にあるのだということをしみじみと感じました。
今回は、そんな「70歳就業法」が4月から施行されることについて、その内容と今後の変化について考えて見ました。
「70歳就業法」とは
1月19日付で「マネーポストWeb」に次のような見出しの記事が載っていました。
「4月に施行される「70歳就業法」で日本の定年制度は事実上消滅する」
https://www.moneypost.jp/748098
この見出しを見てまず思ったのが、「定年後に世界一周旅行がしたい!」とか、「ボランティア活動に専念したい!」とか、私のように「自転車で日本一周したい!」とかは、70歳まではなかなかやりにくくなるなあ、ということでした。
本当に定年制度は過去のものとなるのでしょうか。
そこで、まず記事を読んでみます。ようは改正「高齢者雇用安定法」が今年(令和3年)4月から施行されるということです。
その概要は次の通りです。
1 65歳までは今まで通り雇用義務あり。
2 それに加え、70歳まで仕事を確保する努力義務が企業に課せられる。
1の雇用義務とは、企業は次の3通りの中から選べます。
① 定年を65歳にする
②定年廃止
③ 65歳まで再雇用
2の新しく加わる努力義務は次の5通り(さらに枝分かれして実質7通り)。
① 定年を70歳まで延長
② 定年廃止
③-1 70歳まで再雇用
③-2 他企業への再就職を支援
④-1 フリーランスとして業務委託契約を結ぶ
④-2 起業した人と業務委託契約を結ぶ
⑤ 社会貢献事業に従事
この記事で強調しているのは①〜③までは会社員。ところが④は個人事業主としての位置付けになるということ。健康保険も変わることになり確定申告も行う必要が出てきます。
なお、⑤は企業が運営するNPO法人などで働くことが想定されているということでした。つまり、④も⑤も企業に雇用される会社員ではなくなるということです。
以上が、紹介した記事の概要です。
施行後の影響
これに関連した記事でNHK解説委員室のサイト「持論公論」の記事を見てみます。
こちらではもう少し踏み込んで解説していました。
現在は多くの企業が再雇用していて、70歳就業法が施行された場合にどの選択を行うかを日本商工会議所が中小企業を対象に調査した結果(※)、やはり再雇用が半数以上を占めました。
そして、その次に多かったのは業務委託契約を結ぶで、17.4%だったそうです。
※2020年9月24日14:00発表
全国47都道府県の中小企業 6,007社を対象にし、回答企業数は 2,939社(回答率:48.9%)、調査期間は 2020年7月16日~8月7日
https://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2020/0924140000.html
この、雇用でない選択肢は、労働法の適用を受けられないので、労災事故に対して十分な救済が受けられず、社会保険料も事業主負担がなくなるため、企業がコスト削減のために業務委託契約にする恐れがあるということです。
ただ、上記の④と⑤を選ぶ際は組合の同意が必要になっています。
そのうえで、低賃金生活が5年から10年に延びるだけということになればモチベーションがあがらないこと、そして、今年の春から中小企業にも適用される同一労働・同一賃金で問題になる可能性があると述べています。
このため、企業の中には、雇用形態を見直し、大手企業が導入を始めているジョブ型雇用を導入することが考えられるということです。
ジョブ型雇用とは仕事の内容や役割により賃金を決める方法で、これにより、現役社員の賃金の昇給額を下げてその分を再雇用した後の賃金水準を上げたり、その人の評価によって個別に賃金を上げたりする可能性を示唆しています。
以上がNHK「時論公論」の記事の主張です。
さて、ここまで読んであなたはどう思われましたか。
すくなくとも企業側は、人を雇用すれば70歳までなにかしらの面倒を見る、つまりコストが発生することになりますね。
すると、当然のことながら、できるだけコストを抑える工夫をします。
そこで、ジョブ型雇用のように仕事の内容が異なれば賃金も変わるという、会社内での比較がしにくい賃金体系になり、企業が雇用している者に支払う生涯賃金の総額を増やさないように、薄く長く、そして企業への貢献度に応じて賃金の額を増減することなどがやりやすくなります。
そうしてこれまでの年功序列型賃金体系は崩れていく流れになるのではないかと思います。
それに、近年は転職する人が増えています。
統計省の統計によれば、2019年までの統計では2019年の転職者数351万人で過去最多だったということです。
転職理由は、「より良い条件の仕事を探すため」ということです。
こうした転職は、ジョブ型雇用なら仕事内容が同じ場合、賃金の額を比較してより良いところに転職する者が増えていくことになるでしょう。
なお、現在の努力義務はいずれ義務化される予定になっています。
そうなれば、当然年金の支給開始年齢も引き上げられることになると思います。
欧米型雇用
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さて、アメリカの状況はどうでしょうか。
アメリカの人事制度の特徴とは? 5分でわかる日本との違い | WEBマガジン「INITIATIVE(イニシアチブ)」詳細 | パソナグループ(2017年の記事)を見てみます。
ここでは次のようなことが書かれていました。
1 人材の採用については、ポジションに応じて採用。多くが、例えば経理で入社した場合はずっと経理の仕事を行う。
2 報酬制度については、基本的に職務給。そのポジションにおける能力を重視して決定される。
3 諸手当では、通勤交通費が支給される会社は少なく、住宅補助も少ない傾向にある。一方で営業のコミッションが支給されるケースが多い。
続いて次の記事を見てみます。
日本人が誤解している「欧米型雇用の本質」|採用ノウハウ|中途採用なら採用成功ナビ(2013年の記事)
ここでは、
昇給の状況は、年功要素が小さく、30歳までに昇給できるかどうかが決まる。そもそも管理職の割合が1割程度で、日本の3割を超えている状況とは異なる。管理職になれる社員はごく少数ということ。
35歳以降は、ノンエリートは昇進コースに乗ることは難しく、そこで、職務相応の給与となり、昇給がストップする。その代わり日本のように50歳以降の減給はない。
一方、エリートは能力不足や大きな失敗を犯した人には、随時、上司による厳しい指導が待っていて、達成目標が期限までに達成できない場合は、降給や降格、退職を迫られることもある。
日本では、入社した社員がほぼ同じスタートラインに立ち、管理職を目指して駆け上がろうとするが、欧米ではそもそも入口から分かれていて、スタートラインに差がある。抜擢・入れ替えのチャンスは30歳過ぎまでである。
こうした欧米型のメリットとデメリットは次の通りです。
メリットは、
○9割の人が一生ヒラということになり、そのため賃金が職務に見合っているということであり、企業の出入りがしやすくなる。
○育児のため休職した女性でもすぐに復職できる。
○仕事の質と量はほぼ一定で、残業も休日出勤も少ない。このため男性も育児や家事に参加することができる。これによりワークライフバランスが充実する。
なお、エリートは、家庭内の家事や育児はアウトソーシングしている。
○企業にとっては、年齢が上がっても賃金が上がらないままで、熟練者を雇用することができる。
デメリットは、同じような賃金でも、スキルが不足する若年者を雇用したがらないこと。
以上が記事のまとめでした。
まとめ
さて、ここまで読んでいただいたのならお分かりだと思います。
年功序列型賃金体系が崩れつつある日本でも、欧米のようになっていくのではないかということです。
いままでのように、定年で一度リセットしてもその後も雇用し続けるとなれば、現役世代の賃金体系の山を低くしていくことになると考えるのが自然だと思います。
そして、賃金の額が増えないのなら、対策として資金運用をして将来に備えるということを雇用される側が考えるようになるのは当然のことだと思います。
将来の年金だけでゆとりのある生活をしていくことは不可能です。
若い時から計画的に堅実な投資(積立NISAなど)をしていく必要性を改めて感じる記事でした。
そして、もうすぐ定年となる人にとっては、この過渡期に、自分の人生をどのように生きていきたいのかを考えるチャンスであるとも言えます。
時代の変化に取り残されないようにしたいものだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
では、このへんで
厚生労働省の「高年齢者雇用安定法改正の概要」はコチラから
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf
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